フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン

発刊
2024年3月11日
ページ数
208ページ
読了目安
254分
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日常にも非常時にも役立つ価値をデザインする方法
「日常で役に立つものが、非常時にも役に立つ」という考え方「フェーズフリー」の解説書。
防災という考え方だけでは、コスト面などの問題から、災害対策としては限界があるとし、フェーズフリーという概念を広めることで社会の脆弱性を小さくしてことを提唱しています。

地震や集中豪雨など、災害が多い日本において、日常時と非常時の価値の両立を目指すという、現在、行政や企業に注目されている考え方を学ぶことができます。

非常時にも役立つ仕組みを考える

「災害」とは「危機」と「社会の脆弱性」が出会うことによって生まれる被害の総称であり、「社会の脆弱性」を小さくすることによって解決されるべきものである。しかし、従来の防災だけでは、この社会の脆弱性をすべて取り除くのは難しい。なぜなら日常において防災は「コスト」となってしまい、利用できるリソースが限られるため、無限ともいえる社会の脆弱性に対処し切ることができないからである。

防災がコストになってしまうのは、「備え」が日常において価値を発揮できないからである。普段使わない防災用品は、ついつい後回しになってしまう。仮に防災意識を高め、「備える」ことができても「備え続ける」ことは難しいのが実態である。

 

そこで、はじめから「備えられない」ことを前提として考える。日常生活の中で価値を感じられるものが、結果的に「非常時にも役立つ」ような仕組みをつくる。意識的に備えられなくても、結果的に備わった状態を増やしていけば、社会の脆弱性を小さくし、災害から多くの人を救うことができる。

「日常時」と「非常時」という2つの社会状況(フェーズ)から自由(フリー)になり、「いつも」を豊かにする物が、「もしも」においても暮らしと命を支えてくれるようにデザインしようという、防災にまつわる考え方が「フェーズフリー」である。

 

フェーズフリーの事例

・プリウスPHEV

災害などによる停電が発生した際には、搭載された大容量のリチウムイオンバッテリーが蓄電池として機能するほか、エンジンを作動させれば発電機としても利用可能。

 

・アシックスランウォーク(走れるビジネスシューズ)

災害によって徒歩での帰宅を余儀なくされた際には、足への負担や衝撃を軽減し、瓦礫やひび割れで不安定な路上でも比較的容易に歩くことができる。

 

・脱出ハンマー付きシガーソケットUSBカーチャージャー

日常時には自動車のシガーソケットにつけて使う充電器として、非常時には窓ガラスを割るための脱出ハンマーとして利用可能。

 

フェーズフリーの5原則

フェーズフリーを実現するためには、5つの原則、大切にしている考え方がある。

 

①常活性:日常時だけではなく、非常時にも快適に利用することができる

日常時におけるQOL影響能力と非常時におけるQOL影響能力が、それぞれ高い。

 

②日常性:日常の暮らしの中で、その商品やサービスを心地よく利用することができる

いくら日常時と非常時に価値を発揮できる製品やサービスであっても、デザインが優れていなかったり、高級過ぎたりして、普段の生活で使われていなければ、意味がない。日常せいが高いかどうかは次の4つの指標で判断する。

  • 機能面のデザイン
  • 情緒面のデザイン
  • 入手容易
  • 販売容易

 

③直感性:使用方法や消耗・交換時期などが分かりやすく、誰にも使いやすく利用しやすい

非常時のような慌てた状況においても、使い方がわかりやすいものでなければ、役に立たない。ポイントは以下の3点。

  • 方法理解
  • 場面理解
  • 限度認識

 

④触発性:フェーズフリーな商品・サービスを通して、多くの人に安全や安心に関する意識を提供する

商品やサービスを通して、多くの人が災害に対するイメージをより具体的に描けるようになり、利用者同士で非常時の事前相談・ルール作成などの会話や行動のきっかけとなること。また、その商品やサービスの存在が、新たな商品やサービス開発のきっかけになること。

 

⑤普及性:安心で快適な社会をつくるために、誰でも気軽に利用・参加できる

その商品やサービスを使ってみた人が、アイデアの目新しさや面白さから、周りの人に薦めたくなったり、積極的にSNSで紹介したくなったりすること。

 

フェーズフリーを評価するには、この5つの原則を「汎用性×有効性」という2軸を用いて検討し、ベンチマーク比較する。

 

フェーズフリーをつくる際の注意点

①既存の商品やサービスに、ただ防災機能を追加してしまう

非常時の機能を追加することで、日常時の価値が下がってしまう場合は、フェーズフリーとは言えない。非常時に向けた機能を盛り込もうとした結果、単純に非常時対策分のコストが上乗せされてしまったり、対象ユーザーが狭まったりしてしまいがちである。

 

②思考がバックキャスティングに偏ってしまう

フェーズフリーを考える際、どうしても「命を守る」「暮らしを守る」といった重大で深刻なテーマにばかり意識が向いてしまい、「非常時にどんなものがあれば助かるか」といったような、未来から考える思考を辿りがちである。しかし、非常時にはありとあらゆるものが必要になる。未来から考えようとすると、アイデアが発散し過ぎてしまい、うまく落とし所を見つけるのが難しい。

フェーズフリーなアイデアを生み出すには、現在を起点として、未来に向けて計画を立てる「フォアキャスティング」的な思考で開発する方がいい。