シン・日本の経営 悲観バイアスを排す

発刊
2024年3月9日
ページ数
224ページ
読了目安
275分
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推薦者

日本企業の再興戦略
失われた30年間と悲観されることの多い日本経済だが、その中で日本企業の変革は進んでいると指摘する一冊。

コモディティ製品から、目立たない中間財へと事業の軸足を移し、現在では特定の領域で市場シェアを握る技術力の高い日本企業は増えていると言い、悲観的な日本企業への見方をやめるべきだと書かれています。
この30年間の日本企業をデータをもとに異なった視点から捉えることで見えてくる、日本企業の再興が進んでいる状況がわかります。

コモディティ製品からディープテックへのピボット

日本のビジネスは世界に後れをとっておらず、30年間ずっと停滞してきたわけでもない。日本が世間で言われるよりもはるかに強い理由は、日本企業の再興が進行中であり、グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い企業が新たに出てきたことだ。こうした企業の多くは最終製品ではなく、素材や部品などの中間財を製造している。

過去30年間は「失われた時代」というよりも、「技のデパート」と言われた元関取を彷彿とさせる戦略「舞の海戦略」をとるための抜本的な企業変革の期間だった。先頭を走ってきた日本企業は、複雑な製品や技術という川上領域に進出し、今や必須となっているグローバル・バリューチェーンの重要機能を席巻している。それによって、日本は技術面で強いポジションを獲得し、東アジアにおける貿易の要を担える立場にある。

 

日本企業は製造機械や部品だけでなく、増え続ける他の中間財でも圧倒的な市場シェアを占めている。こうした市場はそれぞれ小さいが足し合わせれば有力なポジションになる。多数の小さな中間財市場で優位に立つことは、日本への依存度を高める力となる。

「舞の海戦略」にピボットした重大な結果として、技術リーダーシップがあまり目立たなくなったことが挙げられる。製造業では、技のデパートの組織能力は多くの場合、素材や部品などの中間財に集中しており、視認しづらい。しかし、今日の日常生活の中で重要な原材料や部品に日本製が用いられていない製品を使わない日はない。

 

常にアップグレードすること

舞の海の成功の秘訣は絶えずアップグレードすることだ。33の技を習得することが競争で一歩先行し続ける術だった。新しい技を使えば、対戦相手には真似ができない予想外の動きが可能になる。

舞の海が日本の現在のビジネス変革のイメージに最適な理由はそこにある。将来を見据えた技術を構築する際に計算されたリスクをとることは、国内だけでなくグローバルで変革と刷新に成功している企業がとっている手法だ。こうした企業の多くは「両利きの経営」という枠組みを活用している。

 

経営戦略の最も基本的な論点は「自社はどんな事業を行うか」だ。「舞の海戦略」に転換し、最先端技術で競争し、今後の自社のアイデンティティを決める場合、これは重要な意思決定となる。決めるべきことは次の2つ。

  1. 自分たちはどのような企業で、現在のコア・コンピタンスは何か
  2. このコア・コンピタンスをユニークで、模倣するのも難しい新規事業にどのように広げられるか

舞の海が同じ技に安住し繰り返し使うことができなかったように、国際競争力のある企業であっても、競合他社より優位に立ちたいならば、常に新しい事業セグメントを「探索」し続けなければならないだろう。

 

日本には希望がある

日本は静かに着実にマイペースで変革に乗り出していた。このスピード感は、企業が再興を図る一方で、社会が損害を受けないように計画的かつ慎重に進める意図的な選択に基づいていると考えられる。実際に現状では失業率の増加は比較的小さく、大量倒産、所得格差の拡大、政治不安、ポピュリズムの高まりを起こさずに、変革が達成されてきた。

この安定性のために日本が支払った代償が、経済成長の鈍化だ。これはアメリカとは正反対の折り合いのつけ方と言える。遅さは経済成長よりも日本社会の好みを反映している。GDPが長きにわたって低迷してきた理由もここにあり、着実な変化は急速な回復よりも重要だとみなされてきたのだ。

 

この社会的に安定を好む傾向は、タイト(合意の度合いと強度が共に高い)な日本の文化から生じている。「タイト」と「ルーズ」には一長一短があり、どちらか一方が優れているというわけではない。日本の競争優位性は、高品質なものづくり、しっかりとしたインフラ、高いレベルのサービスなどにある。これにはタイトな文化が役に立つが、何事にも時間がかかる傾向がある。規定された行動が非常に多いので、変化を起こすためには時間をかけて理路整然とした手法を取らなくてはならないのだ。

 

21世紀において重要なのは、世界1位の経済大国になることよりも、経済成長と社会の安定とのバランスをうまくとっていくことだ。経済的な生産活動と環境の持続可能性を両立させ、企業の進歩やイノベーションと人々の幸福を共存させることが、ますます重要になっている。この新しいバランスの取り方を見つけられれば、より良い資本主義に向けて日本は他の国々の先頭に立てるだろう。