「ザクとうふ」の哲学

発刊
2014年9月12日
ページ数
240ページ
読了目安
259分
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業界の常識をアップデートせよ
中堅の豆腐メーカーはいかにして業界No1となったのか。成熟した業界にあって、常識を打ち破る手法で、急成長する相模屋食料の経営哲学が書かれた本です。

今、目の前にあるものは今だけのものに過ぎない

カメラがフィルムからデジタルになったように、商品には「変化の一瞬」がある。そして一般的に、この変化をつくりだした企業は業績を伸ばし、そうでない企業は思わぬ速さで苦境に陥ってしまう。

 

「今、目の前にあるものが永遠に続く」という世界観の中にこもって生きるか、「今、目の前にあるものは今だけのものに過ぎない」と考えながら生きるかによって、企業の未来は変わってしまう。しかも、時代は一気に変わる。

相模屋食料は6年間で売上高約4倍という成長を達成した。その秘密は、業界では不可能とされていた「職人さんたちがつくったこだわりのお豆腐をつくること」と「それを安定供給すること」とを両立させる仕組みを構築した事にある。

 

ザクとうふはいかにして生まれたか

まず、お豆腐にするなら主人公の「ガンダム」でなく量産型「ザク」がいいと思った。「ガンダム」は作中でただ一機の存在。これをかたどったお豆腐を大量に並べたら、ファン心理としては違和感がある。しかし量産型の「ザク」は数が揃うと、強さを発揮する機体だから、たくさんあるほどカッコいい。

30〜40代の男性に買ってもらうなら、中身はどんなお豆腐がいいか。お客様が何を欲しているかのデータを頭から引っ張り出していくと、ビールのおつまみ、ナンバーワン、ツーはいつも「枝豆」と「冷や奴」である。そして、ザクはたまたま緑色。それなら、枝豆風味のお豆腐を作ればいい。

いつもお豆腐に関する妄想を繰り広げていると、次々とアイデアが浮かんでくる。「思いつき」とは、きっと今まで考え続けてきたものがある刺激を受けて具体化するものである。


お酒の席やビジネスのついでの雑談で「ザクとうふ」の構想を話し続けた。すると、小売店が興味を持ってくれ、いいものができさえすれば、売場は確保できる事がわかった。

 

ビジネスは常道ばかりでも、うまくいかないのは事実である。普段は、仮にお豆腐の製造機械を改良するなら、どれだけ投資すれば、いくら原価を圧縮でき、どれくらいで投資を回収できるか、というシュミレーションは欠かせない。これが正規戦である。しかし「ザクとうふ」に関しては「費用対効果」を考えていたら絶対に実現しない。でも、作ってみたい。これがゲリラ戦である。

 

正規戦なら、市場調査などを論拠に人を動かせる。一方「ゲリラ戦」は妄想や個人の思いをベースに人を巻き込んでいくしかない。「わけのわからないこと」をやろうとする時は、心の底がウズウズする感覚を共有してくれる仲間を集める方が近道である。

但し、世の中になかった商品を出すのは簡単な事ではない。「ザクとうふ」の容器は複雑なため、既存の生産機械を改造しなくてはならない。また、形が複雑で、お豆腐がパックから抜けない難しさがあった。そこから1つ1つ、解決策を提案していった。

 

業界の常識をアップデートせよ

そもそも、お豆腐業界は、あまり大きなメーカーが出現しにくい業界だった。値段の割に重く壊れやすいので、運送費が高くつき、遠くへ持って行くほどに不利になるからである。さらには、新鮮さが求められるので、やはり遠くへ持って行くほど不利になる。

そんな条件もあって全国各地に、スーパーに売る程度に大きなメーカー、売上数億円から数十億円の企業が林立していた。中には、事業規模を拡大しようとした企業もあり、機械化のブームに乗って様々な工程を自動化し、小売店で売る価格のお豆腐を大量生産した。

 

しかし、この「中堅」が一番苦しい。中堅メーカーは生産を機械化したとはいえ、すべてが全自動という訳にはいかない。大豆を水に浸し、すって豆乳を絞って、にがりを入れて、お豆腐をよせる、というところまでは機械化が可能である。ここで生産された大きなお豆腐を切る作業も自動化できる。しかし、お豆腐は柔らかいため、水にさらしてパックに詰める作業は、今も大抵人の手で行われている。

 

お豆腐の生産現場は、かなり非効率なラインでつくっていた。昭和の時代は、まだ利益が上がっていたが、バブル崩壊の長い不況で、お豆腐メーカーの中には安売りにしか活路を見出せない企業が出てきて、無理な安売り競争を繰り広げる事になった。その結果、消費者に「お豆腐は安いもの」という認識が生まれ、業界は疲弊していった。そこに機械の更新時期がやってきた。新しい機械を入れるには莫大な費用がかかる。地方には廃業する中規模のお豆腐屋さんがあとを絶たなくなった。

この業界にも、今まで様々な大資本が参入している。大きなマーケットがあるためである。しかし、ことごとく数年で撤退している。「日配品」だからこその難しさがそこにはある。

 

まずはお豆腐は消費期限が短く、在庫が持てない。だから「返品」も存在しない。売れ残れば「廃棄」となる。ところが、お豆腐は日本の食卓に欠かせないため、小売店にとって「お豆腐は品切れ」などという事はあってはならない。だから、小売店は期限ぎりぎりまで数量を見切ろうとする。そのため、メーカーには即応が求められる。しかも発注量には大きな波がある。

 

変わったお豆腐やこだわりのお豆腐を出しても、結局はSKU(ストック・キーピング・ユニット≒品数)が増えるだけで、在庫や在庫管理に必要な人員が増えて、企業にとって不利になっていく。一時的に商品が人気になったとしても、それだけで会社は成り立たない。

だったら「木綿」と「絹」という2つの商品を、もっと短時間で機動的に作れるよう、社運を賭けてでも極めるべきではないか。そこで、徹底して資金を注ぎ込み、手作業のパック入れ作業を全自動化できないか考えた。こうして、年商以上の設備投資を行い、6年間で売上4倍という、驚異的な成長を遂げた。