これからの地方創生のシナリオ

発刊
2024年2月28日
ページ数
232ページ
読了目安
248分
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地方版MaaSの成功事例
高齢化と人口減少が顕著な地方では、鉄道やコミュニティバスなどの既存の公共交通の縮小が続いている。こうした地方交通の問題に対する解決策の1つ「地方版MaaS」として、地域のマイカーを組み込んだライドシェアサービス「ノッカルあさひまち」の事例を紹介しています。

クルマ社会の地方において、高齢化が進むことで、顕在化してくる地方交通の問題に対して、どのようなアプローチが必要なのかについて、よく理解できる内容になっています。

社会課題を解決する「地方版MaaS」

MaaS(Mobility as a Service)でよく取り上げられるのは、バス・タクシー・鉄道などの複数の交通手段をアプリなどで1つのサービスにまとめて、利用者の移動を変革させるツールである。日本でも2010年代後半から、様々なエリアで実証実験が行われてきた。MaaSは、エリアの人口規模や地域に根付いた交通手段によって、多様な事例が生まれている。

 

政令指定都市を中心とする人口50万人以上の都市では、大手私鉄を中心としたマルチモーダルサービス(複数の交通を統合したサービス)がメインである。一方、人口が5万人を切るような地方自治体では、統合するにも地域交通自体が不足し、衰退が進行する現状がある。MaaSの取り組みも民間ではなく、自治体が運行するコミュニティバスや地元のタクシー、福祉や商業施設などが運行する送迎バスを活用した事例が多く見られる。つまり、サービスを統合・デジタル化していく以前に、既存の交通をどう維持するかの方が大きな問題である。

 

マルチモーダルサービスが提供可能な自治体は、大都市を中心に各地方の中核都市までに限られる。日本全体の9割を超える自治体では、地域交通を支えるバスやタクシーを核とした地方版MaaSが求められ、地域交通の維持が目的となる。

 

地方版MaaS「ノッカルあさひまち」

「ノッカルあさひまち」は、博報堂が中心となり、富山県朝日町で社会実装した「地方版MaaS」で、現在、他地域にもその運行範囲が拡大している。地域のマイカーを活用し、官民共創で運営するもので、事業者協力型ライドシェアとも言われる新しい公共交通である。

朝日町は、新潟との県境にある富山県最北の町。人口は1万人余りだが、高齢化率は45%近く、国内でも有数の少子高齢化が進んでいる地域。交通の要は、富山市とつながる「あいの風とやま鉄道」と、地域内を走る「あさひまちバス」と「黒東タクシー」。但し、バスは3台、タクシーは9台の規模で、町内移動はほとんどがマイカーによるもの。マイカーの登録台数は8000台以上という圧倒的なクルマ社会である。

 

「ノッカル」を開発する際には、人口1万人の町の8000台のマイカーを地域資産として考えた。このマイカーを活用し、お出かけの際にご近所さんを乗せてもよいと考える住民ドライバーの移動に、移動したい住民が乗っかるという仕組みである。昔から地域で行われていたご近所や家族の送迎の「乗っかっていく?」という風習を、利便性や安全性を高め、公共サービスにした。

このノッカルは、運行ダイヤやルートの設定、予約のオペレーション、ドライバーの管理など、ユーザーには見えないバックエンドではデジタルをフル活用している。利用者データは新たなルート開発やダイヤ設計、交通計画の策定などにも活用しており、地域交通DXの最たるものと言える。

一方で、ユーザー接点になるフロントエンドは、圧倒的に高齢者の利用が多いため、無理なデジタル化はしない方針を貫いている。例えば、ノッカルの停留所は既存のバスの停留所を活用し、既存のコミュニティバスのバス券で利用でき、予約はタクシーと同じように電話での受付も可能である。

 

地域にある資産を活用せよ

地域衰退の一丁目一番地は交通である。移動が制限されることは、あらゆる人にとって、生活そのものの制限につながる可能性があるからである。少子高齢化社会における交通課題は、生活そのものや住む場所にも大きく関係し、その地域の存在意義にまで大きな影響を与える。

地域交通全体を再編していく中で、地域全体の移動需要を創造し、地域全体を活性化していく活動を「地域創生MaaS」と定義している。地方創生を考える際に、大切なのは住んでいる人たちにとって「地域の暮らしやコミュニティがどのような状態になることが理想なのか」を突き詰めることである。あくまでも、地域にある資産を最大活用した地域の活性化が重要である。

 

多くの地域交通や日本版MaaS開発の問題点は、人口が減少する前提で、その地域のアセットをどう使い切るか、再編集するかという視点が欠けていることである。地域公共交通計画を考える際にも、バスはバス、鉄道は鉄道のように、それぞれ単一のダイヤや路線変更だけを議論する場合が多くある。そもそも地方部では、鉄道やバスの移動分担率は2〜3%にしかならない。特に地方部は自動車社会であるため、鉄道やバスだけの最適化を考えても、規模が小さくなっていくだけの変更にしかならない。それよりも、移動全体を最適化して、どうやって再編するかの方が重要である。

 

特に地方部では、今後さらに財政状況が悪化することも想定され、既存の公共サービスの維持というコスト面での課題もあり、交通に限らない様々な生活インフラが仕組みごと再構築を求められる可能性がある。