Society5.0
20世紀は鉄道や自動車、航空機など交通の進展や、建設技術の発達に支えられた都市化の時代だった。都市化は産業の高度化、サービス化を促し、かつてない経済成長を人類にもたらした。だが今、都市は新たなターニングポイントに直面しつつある。
「Society5.0」とは日本政府による科学技術政策の基本方針の1つで、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステム」により、「経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義されている。その社会ではIoTによって人とモノが繋がり、様々な知識や情報が共有され、AIによって必要な情報が必要な時に提供されるというものだ。
だが、「Society5.0」で謳われているIoTやAIといった技術的な側面は、都市が抱える課題を解決し、都市のあり方を変革するという観点では、一側面のものでしかない。
都市5.0
都市はこれまで4つの発展段階を踏んできており、これから5つ目へと発展していく。
①神の都市
文字が誕生し、神に関わる人々の権威が高まった
②王の都市
神とのコミュニケーションを行う王の権威が圧倒的なものへと変化
③商人の都市
貨幣が誕生し、市民階級が誕生。社会階層の流動化が可能に
④法人の都市
産業革命により、資本主義経済を形成
⑤個人の都市
IoTやAIなどのテクノロジーの発展により、人間を取り巻くモノやサービスが、人間中心に設計される社会に
『都市5.0』とは、この「個人の都市」を指す。都市5.0とは、IoTやAIなどのデータアナリティクス技術とヒューマン・セントリック・デザイン(人間中心設計)の掛け合わせによって、「個人の都市」を実現することである。ただやみくもにデータアナリティクス技術で、都市の効率化を図っていくだけでは、これまでの「法人の都市」の枠組みから逃れることはできない。都市をデータ駆動型で人間拡張の最大形態として設計することが「都市5.0」である。
この「都市5.0」という考え方は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」そのものである。DXは、単にデジタルテクノロジーを駆使してデータを取得・可視化、解析した上で、効率化を図ったり、付加価値を与えたりすることではない。デジタルテクノロジーを活用しつつ、人間中心で再設計することで、あらゆる物事を根本から変革することがDXの本質である。
メディアの進化が都市を進化させる
都市の進化の背景には、常にメディアの進化があったと言われる。メディアとは、中間にあるもの、間に取り入って媒介するものという意味を持つ。文字とはまさに人間にとって初めてのメディアであり、それが世界で初めての「都市」で誕生し、都市は進化していった。
都市5.0を可能とするIoTやAI技術の進展は、インターネットの進化の延長線上にある。「都市5.0」は、インターネットの進む先として、センシング技術の進展や、データ解析によるアルゴリズム開発と機械学習によって、文字通り「サイバーがフィジカルに溶け込む時代」となってきた。
都市は人間拡張の最大形態である
都市の持続可能性を担保する上では、まず都市を人間拡張の最大形態として捉えることが不可欠である。都市は、人間自らの拡張としてのテクノロジーによって構築される限りにおいては、人間がつくり得る、人間拡張の最大形態と言える。
都市が進化していく中で、その時々の都市が破綻していった理由の多くは、人間拡張の最大形態たる都市が、人間から乖離してしまったことにある。人間を無理やりテクノロジーの枠にはめ込み、人間中心設計の思想がすっぽり抜け落ちてきたことが要因である。