資本主義に基づいた思考を理解せよ
日本の経営者は世界の投資家と「共通言語」で話していない。それは、英語を流暢に話すこととは異なる。共通言語で話していないから相手の意図が分からず、質問されてもその答えが要領を得ないと感じさせる。その結果、事業を適正に評価されることなく、「腑に落ちない」と投資を見送られてしまう。
世界トップ投資家が発する「フレーズ」には、投資家の意図があり、それを理解することは共通言語を習得する近道である。フレーズの多くは、投資を検討する際、投資対象に対して投げかける質問や、投資対象の財務状況や信用を精査する時に使っているもので、いわば資本主義的価値に基づいたものである。
経営の世界では、市場経済の原理、つまりグローバル投資家の視点を理解することが成功をもたらす大きな要因となる。良質な投資家との対話を通じて得られる洞察は、価値創造における新たなアプローチを見つけるヒントになる。
まず仮説ありき
Your idea is not part of my investment thesis
投資家の意図は「まず仮説ありき」ということ。「投資仮説」とは「投資に対する仮説」であり、ベンチャー投資家であれ、上場企業を担当するファンドマネジャーであれ、プロの投資家であれば必ず持っている。プロは自分の投資仮説に基づいて判断するので、たとえ事業プランが客観的に素晴らしくても自分の投資仮説と違っていれば、その案件に投資することはない。
投資仮説を構成する視点には、マクロ環境の変化を捉える視点、その変化が産業・企業・消費者に与える影響分析、成長戦略の立案、リターン獲得や企業価値向上への貢献方法のシュミレーションが含まれる。投資家の投資仮説を知ることは、その投資家が世の中の変化をどのように捉えているか、どこにビジネスチャンスを見出しているかを知るということ。
投資家は投資対象を絶えず探しているので、自分の投資仮説を公表している。資金調達で投資家に会う際には、投資家の投資仮説を把握しておくことが大切である。
良質な投資家は信用を補完する
Who has already invested ?
投資家の意図は「良質な投資家は信用を補完する」である。「誰が投資しているか」という情報は、ベンチャー投資家にとって、投資可否を判断する際の重要な情報である場合が多い。国内でも海外でも、投資先を何度も上場に導いた著名なVCがある。エンジェルと呼ばれる個人投資家もいる。「このVCが出資しているなら、厳しい投資プロセスを通っているので将来性がありそうだ」と判断されやすく、投資を検討する上で好材料になる。
スタートアップでは多くの場合、ベンチャー投資家が株主であると同時に、コーチのように起業家と二人三脚で企業を成長させていく役割を担う。優秀なベンチャー投資家は、豊かな経験やネットワークを持っている。お金そのものに色はないが、たとえ出資額が同じだったとしても、「誰」がその企業の将来性を信じて出資したのか、どのようなステークホルダーがいる企業なのかということは、その企業の将来性や信用力に大きな違いをもたらす。
明確な成長ドライバーは必須要件
What’s the why now factor ?
投資家の意図は「明確な成長ドライバーは必須要件」なんだということ。市場に出るのが早すぎても遅すぎても、初期の普及フェーズを逃してしまうリスクがある。事業はタイミングが大事で、タイミングが早すぎるとうまく事業を軌道に乗せることができずお金を燃やし続けることになるし、遅すぎると成熟市場への参入となり、シェアの獲得は困難を極める。
投資家が「なぜ今なのか」を確認する観点はいくつもあり、「準備」という意味の「レディネス」という言葉を使う。「マーケットレディネス」とは市場ニーズのこと。「テクノロジーレディネス」とは、事業化に欠かせない要素技術が成熟しているかどうかを意味する。法律変更などの「法的なレディネス」、社会的価値観のシフトや文化的なトレンド変化などと関連する「社会的なレディネス」もある。
いい商品も売れなければ価値はない
What’s your Go-To-Market strategy ?
「Go-To-Market(GTM)」とは、市場に新規参入する際の「再現性のある営業プロセス」のことを指し、より具体的には適切な顧客セグメントのターゲティング、流通とマーケティングのための適切なチャネルの選択、価格戦略の設定、販売戦術の開発が含まれる。効果的なGTMの構築は、スタートアップがスモールビジネスにとどまるか、成長ベンチャーへと進化していくのかの分かれ道である。
GTMは一度構築すればいいわけではなく、プロダクトが違えば、プロダクトに合ったGTMであることが求められる。