ナチュラル・リーダーシップとは
これからの時代に求められるのは、状況の変化に臨機応変に対応すること、そして、自らの「埋もれている力」に光を当てて、引き出すこと。その「埋もれている力」は「感覚」の中にある。
私たちは、社会に適応するにあたって「どう感じるか」ではなく、「どうすべきか」が優先され、思考ばかりがフル回転している。この状況下では、感覚は鈍っていく。感覚を呼び戻すには、雄大な自然の力を借りる。自然に触れ、その存在を意識することで、自然から得る視覚、聴覚、嗅覚的な刺激に集中し、鈍っていた感覚を開き、研ぎ澄ませていくことができる。
この感覚を出発点として、他者の反応を鋭敏に察するようになり、自分の本心を感じ取ることもできるようになる。危機的状況でいち早く、最適なアクションを起こせるようにもなる。
「ありのままの私が、自然や他者の一部であるという感覚に基づいて発揮するリーダーシップ」をナチュラル・リーダーシップと定義する。
ナチュラル・リーダーシップを身につける3ステップと行動様式
Step1 個人の内部が変容(高度なレベルで心身が一致する)
常に思考優位で、思い込みや固定観念に縛られていること、また、考えていることと感じていることがバラバラな状態であることを自覚する。その上で、思考優位の影で埋もれている「感覚」を取り戻すことに注力する。
①感覚を鍛える
感覚を鍛え直し「感覚→感情→思考→行動」のサイクルを取り戻す。鍛える方法は、各感覚の存在に改めて目を向け、敏感に感じ取ろうと、意識する時間を設けるだけである。この積み重ねが、自分の感情をより豊かなものへと変える。
②感覚を情報に変える
体の内部からの感覚(呼吸、痛みなどの違和感、体温、心拍、胃腸の動きなど)を捉えたら、どのような意味があるのか、詳細に読み解く。自分の内部から発動する感覚を正しく捉えて行動につなげることができると、より高度な心身一致の状態へと近づく。
③センス・オブ・ワンダーを持つ
「自分以外の存在を感じられる力」「自然の一部であることを感じられる力」を「センス・オブ・ワンダー」と呼ぶ。真の意味で社会の一員になるために、まずありのままの自分で「他の存在」と向き合い、関心を自分から他者に移すところから始める。「他の存在」に関心が移ると、その存在が生きていくためにどのような環境が必要か、関心が広がる。
Step2 二者間の関係性が変容(他者とリスペクトのある関係性を築く)
感覚を働かせることができる状態の人は、他者の感覚にも敏感になる。また、既に自分らしさを体得しているので、他者に対しても関心を移しやすくなる。
④相手の境界を知り、越える
「境界」とは、「仲間のならこの範囲にいてもいい」「これ以上近づかれるとつらい」といった、距離ごとに区切られる物理的、かつ心理的な壁のこと。お互いの境界を丁寧に感知し、尊重できているかどうかが、関係性の善し悪しに大きく影響を及ぼす。
⑤相手の弱さを尊重する
「弱さ」(=多様性)には、3種類ある。
- 指標化した時に低い評価になるもの(学歴、年齢、役職、性別、経歴など)
- 指標化できず、言葉にしづらく、見えにくいもの
- 目には見えないが、存在しているもの
これら3つは、視点や環境の変化によって「強さ」に入れ替わることがある。「強さ」と「弱さ」を区別せずに、共に尊重し活かすことが求められる。
⑥真の危機以外はエネルギーを温存する
不要な競争を見抜き、避ける。「よく考えたら大した問題ではない」と感じたら、さっと水に流すを意識して繰り返すことで、判断が早くなっていき、自然とできるようになる。
Step3 組織での関係性が変容(個々が自分らしくいながら全体と調和している、組織のヒエラルキーが固定化しない)
皆が感覚を使い、自分らしさを大切にしながら、同時に、互いの強みや弱みを感じ取り、尊重し合う組織になれれば、組織の運営形態が変化し、ヒエラルキーが固定化しないフラットな組織へと変わっていく。
⑦他者のルールの中でも自分の感覚に忠実
既存の決まりごとに必要以上にとらわれず、今、この瞬間に必要な言動を、自分の感覚に従って行う。
⑧ゴールよりプロセス
ゴールにとらわれすぎる姿勢から脱し、その前段階にあるプロセスに重きを置き直すことで、崩れたバランスを取り戻す。
⑨複数でリーダーシップをとる
個として生き延びるだけでなく、自然の中の一部として生き延びる、という価値観を大切にし、それに沿った言動を行うことでリーダーシップを発揮し、自分も周りも成長させる。
⑩英雄的な感覚を持つ
他者の命が困難な状態にある時、自分の命のことなど考える間もなく、衝動的に手を差し伸べてしまう「英雄的な感覚」を持っている人のそばには、多くの人が集まり、逆にその人を助けてくれるという状態が起きる。