世界から青空がなくなる日 自然を操作するテクノロジーと人新世の未来

発刊
2024年1月26日
ページ数
312ページ
読了目安
420分
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地球温暖化を止めるテクノロジーの現在地点と課題
地球の温暖化が進む中で、「ネガティブ・エミッション」と呼ばれる二酸化炭素を空気中から回収し除去する様々な技術の研究が進んでいる。二酸化炭素の排出削減が進まない中で、選択肢の1つとして、どのようなものがあるのか。
二酸化炭素を地中に埋めて岩石化する技術から、大気圏にエアロゾルを撒いて、太陽光のエネルギーを減らして地球を冷やす技術まで、様々な科学者へのインタビューに基づいて、現時点の研究が紹介されています。

これまで人間がテクノロジーを用いて、自然に対して影響を及ぼしてきた過去の事例などを紹介し、人間が自然をコントロールしようとするとはどのようなことかを考えさせます。

二酸化炭素を石に変える

クライムワークスという会社は、お金さえ払えば、契約者の排出する二酸化炭素を空気から取り除いてくれる。その後、地下800mに注入すれば、二酸化炭素がそこで固定されて岩石になる。クライムワークスの「空気を岩石にする」事業はアイスランド南部で展開されている。

地熱発電所は、化石燃料を燃やす代わりに、地下から取り出した蒸気や高温の熱水に頼っている。発電所としては「クリーン」だが、熱水は必然的に硫化水素や二酸化炭素などの不要なガスを伴う。この二酸化炭素をそのまま大気中へ逃すのではなく、ヘトリスヘイジ発電所ではそのガスを回収し、水に溶かす。そうしてから、その混合物(高圧の炭酸水)を地下に注入する。地下深くに注入された二酸化炭素は火山岩と反応し、鉱物化する。

人間が排出した二酸化炭素のほとんどは、なんの助けがなくても、化学的風化と呼ばれる自然のプロセスを通じて、最終的には石になるが、それには数十万年を要する。発電所では、その化学反応を数桁単位で加速させている。

 

ネガティブ・エミッション頼みになる世界

世界がどこまで暑くなったら、大惨事が不可避になるのか。その正確なところは誰にもわからない。国際社会の公式見解では、破滅が始まるのは、世界の平均気温が産業革命以前に比べて2℃上昇した時とされている。2℃を超えないようにするためには、世界の温室効果ガス排出量を数十年以内にほぼゼロにまで減らす必要がある。

二酸化炭素除去は、その計算を変える1つの手段になる。大気からの二酸化炭素の大量抽出と「ネガティブ・エミッション(大気中の温室効果ガスを回収・除去する技術の総称)」は、正の方の排出量を相殺できるかもしれない。

 

「ネガティブ・エミッション」の発明者とも呼べる物理学者クラウス・ラックナーが、開発した二酸化炭素除去装置は、セミトレーラー大の装置1つで年間365トンの二酸化酸素を除去できるという。現在、世界の排出量は年間400億トン前後で推移していることから、1億台作れば大体追いつくという。ラックナーに言わせれば、「深刻な問題」を避けるための鍵は、考え方を変えることにある。いわく、二酸化炭素を下水と同じように捉えるべきだという。

 

二酸化炭素は、一度空気中に放出されたら、そこにずっととどまる。排出量の削減は絶対必要であると同時にそれだけでは不十分でもあり、排出量を減らしても二酸化炭素濃度は下がらない。さらに公平さの問題もある。二酸化炭素が累積的であることを考えれば、気候変動の責任が最も重いのは、歴史を通じて最も多くを排出してきた先進国と言える。排出量をゼロにするためには、全員が排出をやめなければならないが、その問題を責任がない国に脱炭素を求めるのは不公平だ。こうした様々な状況が、ネガティブ・エミッションを争い難いものにしている。

 

とはいえ、二酸化炭素を空気から取り除けるからといって、大規模でできるとは限らない。回収した二酸化炭素はどこかへ運ばなければならないし、その場所の安全が保たれなければならない。最後にコストの問題がある。

 

ソーラー・ジオエンジニアリング

ソーラー・ジオエンジニアリングは「太陽放射管理」と呼ばれることもある。裏にあるのは、火山が世界を冷やせるのなら人間にもできるはず、という考え方だ。途方もない量の反射性粒子を成層圏に投げ込めば、地球に届く太陽光が少なくなる。気温の上昇が止まり、大惨事を回避できると見込まれている。

 

ポイントは、地球に到達する太陽からのエネルギー量を減らすことにある。原理上は、どんな種類の反射性粒子でも構わない。科学者フランク・クエイチュが最も熱を入れているものが炭酸カルシウムだ。世界にとりわけ多く存在する堆積岩、石灰岩の主成分である。対流圏には、大量の石灰岩の塵が風に舞っている。光学特性も理想に近く、酸にも溶けるので二酸化硫黄のようなオゾン層破壊の影響もない。数理モデルでも炭酸カルシウムの利点が裏付けられているが、誰かが実際に炭酸カルシウムを成層圏に放り込んでみるまでは、そのモデルがどこまで信用できるかを判断するのは難しい。

 

ハーバード大学の応用物理学者教授ディヴィッド・キースが提唱している案によれば、最も安全な選択肢は、温暖化を完全に相殺するのではなく、半分ほどに抑制できる程度のエアロゾルを投入することだという。エアロゾルを送り込む最善の方法は、航空機を使うやり方だろう。高度およそ18kmに到達でき、20トンほどの荷を運べる飛行機が必要になるが、開発費用は25億ドルになると結論づけられている。

ソーラー・ジオエンジニアリングは比較的安いというだけでなく、スピーディでもある。飛行機の編隊が稼働し始めたら、ほとんど即座に冷え始めるはずだ。気候変動に関して「迅速に何かする」のなら、この方法しかない。だが、成層圏に投入する粒子が増えれば増えるほど、不気味な副作用が生じる可能性は高くなる。研究では、白が新たな空色になるという。

 

参考文献・紹介書籍