限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話

発刊
2024年1月12日
ページ数
240ページ
読了目安
259分
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悪質な不動産開発による負の遺産は現在どうなっているのか
1970年代から1980年代のバルブ時代の頃に、投機商品として郊外エリアのさらに外に作られた「限界分譲地」の過去と現在、その問題を紹介している一冊。

かつて原野商法など、価値を生み出さない不動産が、投機目的で盛んに売買されていた時代の負の遺産は、現在どのようなことになっているのか。30年以上経った今、都市近郊にありながら、交通や教育、生活インフラが衰退していく限界分譲地について、リアルな実態が紹介されています。

限界分譲地とは

「限界ニュータウン」「限界分譲地」とは、わずかにしか家屋が建てられておらず、今なお多数の区画が更地のまま残れているような住宅分譲地のことである。「限界ニュータウン」「限界分譲地」の多くは、いわゆる「郊外エリア」のさらに外縁部、都市近郊型の農業地帯の中に虫食い状に点在している。

これらは、都市部から極端に遠いわけでもなければ、かといって利便性を享受できるほど近くもないという絶妙に中途半端な立地にあり、これが限界ニュータウンをめぐる諸問題を引き起こす要因の1つになっている。限界ニュータウンの場合、限界集落と異なり、自力移動が困難なほど体力の衰えた高齢者でもない限り、日常生活に著しく支障が出るほど悪条件の立地でもないために、利便性が悪い代わりに地価が安い住宅地として、地域社会に今も組み込まれているという実態がある。

 

「限界ニュータウン」「限界分譲地」と化してしまったかつての分譲地は、山村にあるか、都市の近郊かというような立地の問題というよりは、むしろその開発用地として選定された自治体、地域が、その当時どのような開発規制が掛けられていたかに左右される面が大きい。宅地開発を行う上での主要な規制法である都市計画法の制定は1968年で、本格的な開発ブームが巻き起こる時期だが、この規制は「都市計画区域」として指定された場所に適用される。都市計画区域に含まれていない場所は、元々あまり大規模な開発の予定がないので当然地価は安い。開発に関わる規制も緩いので、許可が不要な範囲で開発できる面積も広くなる。この地価の安い都市計画区域外で、開発許可が不要な範囲の小規模開発によって宅地分譲を繰り返すという、安易やビジネスモデルが、1970年、1980年代に千葉県で言えば、主に成田空港周辺や、八街市、山武市、下総町や大栄町といった自治体で横行した。

 

限界分譲地の問題

限界分譲地の生活インフラにおいて、特に衰退が顕著なのは交通機関と教育施設である。鉄道の減便、バス路線の縮小や廃止、そして児童・生徒減少に伴う小中学校の統合・廃止である。一般の郊外住宅地同様、「ベッドタウン」としての用途に特化して利用されてきた限界分譲地において、この交通と教育のインフラから切り離されるのは、特に子育て世代にとっては致命的なマイナスポイントになる。学校の有無は、現在、多くの地方都市において、その土地の資産性や流動性を左右する最も重要なファクターになっている。

 

各家庭に供給される電気・水道・ガスといった生活インフラについては、現時点で電気とガスについては大きな問題は発生していない。問題は上下水道である。千葉県の農村部は上下水道の普及率が低く、その農村部に散財する限界分譲地も、今なお上下水道すら届いていない所は珍しくない。上水道のない分譲地の住戸は、基本的に自前の井戸を掘って生活用水を確保しているが、数百区画に及ぶ住宅分譲地だと、私設の水道設備を構えていることもある。深刻なのはこの私設の水道設備であったりする。公共事業でも多額の出費を要するような水道の維持管理を、数百世帯の住民が結成した管理組合で続けている実態がある。

 

分譲住宅地は、各個人の私有地のみで構成されているわけではない。どんな小規模の分譲地でも道路はあるし、側溝や街灯といった生活に必要不可欠なものから、公園や集会所など、地域コミュニティのための施設もある。有象無象の民間事業者が好き勝手に開発したような分譲地は、こうした道路や側溝までもが区画所有者の私有地に含まれている場合が多い。そうした私有地は、公道や公共用地のように、行政による補修や維持管理の手が入らず、基本的に住民・所有者自身が自力で管理を続けなくてはならない。限界分譲地では、こうした共有設備が著しく経年劣化し、部分的な放棄が起こっている。

 

利用と放棄が混在する現在の限界分譲地

かつて投機商品として販売された「限界分譲地」では、空き地が今なお大量に放置されている一方で、中古住宅の市場は活況を呈してきた。よほど再利用が困難な廃墟でもない限り、空き家に買い手がつかず手放せないという状況は起こり得ない。投げ売り価格の物件などは、一般の物件サイトでは見かけなくなった。

現在、千葉の限界分譲地の中古住宅は、都市部からの流入がメインだった開発当初と異なり、今はその多くが地元出身者や近隣住民の住み替え需要が中心だ。また比較的新しい限界分譲地では、新築工事を見掛ける機会も多くなった。

 

しかし、中古住宅の需要が高まろうと、新築家屋が増加しようとも、限界分譲地に関わる諸問題が解決に向かっているわけではない。地域としては明らかに衰退の方向で進んでいながら、一方ではわずかながら人口流入がいまだ続くという街としては、いわば倒錯した状況が同時進行で発生している。

 

参考文献・紹介書籍