ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生

発刊
2023年12月18日
ページ数
480ページ
読了目安
883分
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地球環境やテクノロジーに対する思想の先駆け
スティーブ・ジョブズなどに思想的な影響を与えたスチュアート・ブランドの物語。コンピューターが一般的ではなく、インターネットも登場していない1960年代から1970年代にかけて、「ホールアース・カタログ」という様々なツールや知識をまとめたカタログを創刊し、多くの人のモノの見方に影響を与えてきたブランドの革新的な考え方が書かれています。

地球全体という発想

スチュアート・ブランドは、1960年代から70年代にかけてアメリカの若者世代のバイブルになった、ツールや本や他の興味深い記事の詰まった「ホールアース・カタログ」という雑誌を創刊した人物として広く知られている。

彼は、小さなことから大きな事象まで世界の見方を改革していった。1960年代にはアメリカの歴史や文化闘争を引き起こし、その影響が今も残るカウンターカルチャーが巻き起こった際には、その先導的な働きをした。1970年代には現在の環境保護運動に通じる様々な動きの中にどっぷり浸かっていた。

 

彼が1968年の秋に創刊した「ホールアース・カタログ」を取り巻く様々なアイデアや改革運動は、シリコンバレーで花開いたテクノ理想主義的な文化の前兆となり、それと共鳴するものだった。ここ10年ほどは現代のバイオ・テクノロジーを使って絶滅危惧種を救って復活させようとする組織まで立ち上げている。彼の人生の軌跡は非常にカリフォルニア的な感性を生み出し、そうした精神的な状態を世界全体に向けて広げていった。

 

ブランドが過去60年間に試みてきたことの多くは上手くはいかなかったが、いくつか素晴らしい成功もあった。彼がカウンターカルチャーや最近のミレニアル世代に対して演じた最も重要な役割は、自分の人生をどう生きるかというモデルを示したことだ。

スティーブ・ジョブズは2005年のスタンフォード大学の卒業式公演で、自分の人生がいかにブランドのやり方に影響を受けたかを滔々と語った。彼はブランドの「ホールアース・エピローグ」を締めくくるページに書かれた「Stay hungry. Stay foolish.」という言葉に啓示を受けたという。
ブランドはカタログの裏表紙にカルフォルニアのハイウェイで朝日を浴びた何もない道の写真の上に、宇宙から見た日の出の写真を載せて、人生を偶然の発見に委ねるための方法を示そうと使っていた。

 

ブランドの最も偉大な遺産は「ホールアース(地球全体)」というたった1つのシンボルに象徴されている。ブランドは、地球を宇宙から見たら、我々の惑星や自分の見方が変わるのではないか、と気づいた。そして、この惑星全体の写真を撮って持ち帰ったら、それがすべての人類が共有する1つの家のように見えるのではないか、という考えに取り憑かれた。
彼が「ホールアース・カタログの表紙に掲載した地球全体の写真は、1つにまとまった惑星の文化の重要性を祈願するような写真であり、そのイメージは、見る人すべてにホリスティック(全体論的)な考えをさせるものだった。

 

ツールへのアクセスが個人を再発明する

ブランドは「学習」が個人と組織を協鳴させる基本的要素であると考えた。技能を学ぶには、ツールを獲得すればいい。「ホールアース・カタログ」の副題は「ツールへのアクセス」となったが、これは「もし人々に新しい考えを教えたかったら、彼らにわざわざ教えようとしなくていい。その代わりに、彼らにツールを与えれば、それを使うことが新しい思考法につながる」という考えを反映したものだった。

ブランドは、ツールは本来的に世界を民主化し、社会的変革の仲介者になると信じるようになった。それにも増してツールへの情熱が高まり、ついには人類の進歩はテクノロジーの向上がもたらすと強く信じるようになり、一般的なテクノ好きの立場をとるようになった。1967年には、コンピューターが最も汎用的なツールであると考える偶像破壊的なコンピューター学者のダグラス・エンゲルハートの取り巻きになることで、こうした見方がより強化された。

 

ブランドは、多くの人たちが必要としているのは、ある仕事をする時に必要なツールやサービスや知識であって、それは他人から口伝えに断片的に教わるコツではなくて、整然とシステム的に簡単に伝えられるものでなくてはならないと考えた。

そうしたサービスをつくるにはどうすればよいのか。それはほとんど移動図書館のようなもので、貸すのではなく販売するのであって、物理的な物を配布するだけでなく、それをどうやって使うかの情報も扱う。彼はカタログの内容が、主にその利用者によって定常的に更新されるという考えも付け加えた。

 

「カタログ」が初めて公表されたのは1968年5月で、年間8ドルで定期購読すると本誌2冊と別冊2冊で、個別に1冊買えば5ドルという設定だった。そしてすぐに広告は掲載しないことに決めた。最初の64ページの「カタログ」は、カタログに載せた物品を売る目的のトラック・ストアから曲がったところのメンローパークの小さな印刷所で印刷された。

「カタログ」は評価とアクセスのための「装置」で、利用者が「それを手にする価値があるかを知り、それをどこでいかに取得するか」を教えるものだった。表と裏の表紙には、NASAの気象衛星が撮影した大判の地球のカラー写真が使われた。