AIファースト・カンパニー アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略

発刊
2023年10月20日
ページ数
432ページ
読了目安
587分
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AI時代の競争原理
AIによって企業の競争環境が大きく変化してきている状況を説明し、その変化の本質を解説している一冊。
これまでの人が担うことでボトルネックとなっていたタスクをいかにAIに代替させるかが、これからの競争優位性に大きく影響するとし、AI企業になるための方策を示しています。

アントフィナンシャルやアマゾン、マイクロソフトなど、AIを企業の中核に据える企業の数々の事例から、これから企業はどのように変わっていくべきかがわかります。

デジタル・オペレーティング・モデルの本質

企業の価値は2つの概念で構成される。

  1. ビジネスモデル:企業がどのような価値を生み出し、またその一部を獲得するか
  2. オペレーティング・モデル:企業がその価値をどのように顧客に届けるか

ビジネスモデルが網羅するのはその企業の戦略だ。その企業独自の商品やサービスを提供し収益化することで、いかに競合他社と差別化するかである。オペレーティング・モデルで扱うのは、商品やサービスを顧客に提供できるようにするシステム、プロセス、ケイパビリティ(能力)だ。

 

新タイプのデジタル企業で重要なのは、ビジネスモデルのイノベーション、価値創造と価値獲得の諸側面について実験し組み替えることだ。既存企業の場合、価値創造と価値獲得は大抵単純明快で、密接に絡み合い、単純な価格設定メカニズムを通じて同じソース(顧客)を用いて行われる。一方、完全にデジタル化されたビジネスなら、選択肢ははるかに広い。というのも価値創造と価値獲得の分離がはるかに簡単で、多くの場合、価値創造と価値獲得のソースとなるステークホルダーが異なるからだ。グーグルはほとんどのサービスをユーザーに無料で提供し、製品ポートフォリオ全体で広告主から価値を獲得している。デジタル企業にとって、このようなビジネスモデルのイノベーション全般の根底にあるのは、全く異なる種類のオペレーティング・モデルだ。

 

オペレーティング・モデルの包括的な目標は比較的シンプルだ。究極的には、価値を提供する規模を拡大し、十分な範囲に提供価値を拡張し、十分な学習に取り組んで変化に対応することが目標だ。規模、範囲、学習を推進すればするほど、企業の価値は高まる。

しかし、同時に3つのオペレーション次元がそれぞれ広がれば、従来のオペレーティング・モデルの複雑さが増し、これまで以上にマネジメントが困難になる。極めて重要なのが、ここから企業による価値創出や価値獲得をこれまで限定してきた業務上の制約が生じることだ。

デジタル企業が異なるのは、まさにこの部分である。新タイプの企業は、基本的に新タイプのオペレーティング・モデルを展開することで、これまでにないレベルで規模拡大を実現し、これまで以上に広大な範囲の製品・事業領域への進出を実現し、伝統的な企業よりもはるかに速いスピードで学習している。これは、デジタル企業が価値提供のクリティカルパス(臨界経路)を変革しつつあるからだ。

 

デジタル・オペレーティング・モデルの本質は、製品やサービス提供プロセスのクリティカルパスに人間が直接介入しないようにすることにある。データ重視のアクションを自動化し、価値提供のボトルネックから人手による作業を徐々に取り除いていく。従業員は戦略定義、UIの設計、アルゴリズム開発、ソフトウェアのコーディング、データ解釈を支援するが、顧客価値を高める実際のプロセスは完全にデジタル化されている。

クリティカルパスから人や組織のボトルネックを取り除くことは、企業のオペレーティング・モデルのあり方に大きな影響を及ぼす。多くのデジタル・ネットワーク上で、ユーザーがもう1人増えた時にサービスを提供するための限界費用は、クラウドサービス事業者から簡単に入手できるコンピューティング能力のわずかな増分を除けば、事実上ゼロになる。

 

AIは普遍的な「実行エンジン」になりつつある

今日、企業がこれまでにない抜本的な変革を進めることにより、AI時代が到来している。これはデータ収集、アナリティクス、意思決定を工業化し、現代企業の中核を再構築するものだ。これを「AIファクトリー」と呼ぶ。

AIファクトリーは、21世紀型企業のデジタル・オペレーティング・モデルを支える規模拡大可能な意思決定エンジンだ。経営上の意思決定はますますソフトウェアに組み込まれるようになり、従来は従業員が行っていた多くのプロセスがデジタル化される。

 

ユーザーのエンゲージメント、データ収集、アルゴリズム設計、予測、改善の間で好循環を生み出すのがAIファクトリーだ。複数ソースのデータを統合し、一連のアルゴリズムを精緻化し訓練する。アルゴリズムは予測に使われるだけでなく、そのデータを用いることでアルゴリズム自体の精度も高まっていく。こうした予測は、人間が参考にして示唆を得たり、自動対応を可能にしたりすることで、意思決定やアクションを加速させる。

 

新時代の競走優位性

AIとネットワークの戦略的ダイナミクスは密接に関係している。デジタル企業と既存企業間の衝突が産業を一変させ、企業が次第にデジタル基盤を構築するにつれて、経済構造はソーシャル・ネットワーク、サプライチェーン・ネットワーク、モバイルアプリ・ネットワークなど、様々なサブネットワークを持つ巨大で包括的なAI搭載ネットワークに再構成されつつある。

 

競争優位性はますます、このようなネットワークを形成し、制御し、そこで行われるトランザクションの量や種類を獲得する能力によって規定されるようになっている。その結果、事業をつなげて、事業間で流れるデータを集約し、強力なアナリティクスとAIを通じて価値を抽出する際に、最も中心的な役割を果たす組織が競争優位性を獲得するようになった。

 

今日でも未だにネットワークやデータのダイナミクスを無視し、特定の産業セグメントに集中し、あたかも自社が他の経済圏とかけ離れているかのように振る舞う企業が多い。しかし、デジタル化されたオペレーティング・モデルを持った企業と衝突する中で、このような従来の戦略は通用しなくなってきている。