2050年までに世界に変化をもたらす5つの力
①人口動態
世界の人口は、2019年半ばには77億人だったが、2050年には100億人弱になる見込みである。インドの人口は16億人を超え、世界で最も人口が多い国になる。そのすぐ後に中国が14億人で続く。3位のアメリカは約4億人、4位のナイジェリアは4億人弱。以下、インドネシア、パキスタン、ブラジル、バングラディシュが続き、いずれも2〜3億人になる。
ここで次々に疑問が湧く。1つは環境への負荷。少なくとも人間が生きていくには十分な食べ物と真水と住むところが必要になる。もう1つは国際金融に与える影響。人口が収縮している重債務国は、国家債務の利払いが難しくなるだろう。さらに人的資本に関わるものもある。急増するアフリカの若者に十分によい教育を与えることができるのか。テクノロジーが進歩すれば、先進世界の高齢市民が文化生活の質を維持しやすくなるのか。
すべての疑問に影を落としているのが、経済力のシフトだ。人口動態には大きな流れが3つある。
- 先進世界全体の高齢化
- アジアの人口重心が中国からインドにシフトする
- アフリカの人口の急増
人口が増えると地球の資源にかかる負荷も増える。地球の人口はこれからも増える見通しであり、ほとんどの人は生活水準が上がることを望むだろう。そうだとしたら、世界はとても厳しい現実と向き合うことになる。
世界の人口重心は、国単位でも、国同士の間でも、高齢者層へと移っており、緊張は一層高まるだろう。この状況はこれまでに経験したことがなく、歴史から学べる教訓もない。
②資源と環境
1990年代には様々な環境問題が懸念されていたが、今は気候変動が最大の焦点になっている。気候変動は、環境と天然資源に関連するあらゆる問題に大きな影響を与える。
水は生命線だが、世界の人口の1/4が十分な生活用水を得られていない。大都市の中には、水道水の供給が完全に止まる一歩手前まできたケースもある。脱塩処理するコストは着実に下がっており、海に近い場所では、解決策の1つになる。大半の豊かな国は、必要な水を供給する方法を見つけ出すだろう。影響を受けるのは貧しい国だ。インド、中国、サハラ以南アフリカの一部の国では、水との闘いは続く。
人々が土地を所有するか長期間借りて、土地が荒れないようにすれば、世界は増え続ける人口を食べていけるはずである。しかし、肉の消費量が増えるペースを遅くする努力がもっと必要になるだろう。広く考えれば、世界全体で100億人を食べさせることは可能であり、水の供給を管理し、世界全体ですべての人が必要な量の水を確保できるだろう。しかし、一部の都市が繰り返し水不足に陥るなど、局所的・地域的な危機は続くと見られ、それが政治的な対立、場合によっては軍事的な対立に発展するかもしれない。
何よりも心配なのが、2030年までに気温の上昇が1.5℃を超えてしまうことだ。そうなったら、世界は人類が安全に住めるところではなくなる。1.5℃までに抑える目標が達成できれば、世界は2050年まで漸進的な進歩が続く。
③貿易と金融
アメリカが中国との貿易戦争を始めるずっと前の時点で、世界貿易の成長にはすでに陰りが出ていた。世界GDPの成長率を上回るペースで拡大していた世界の貿易量が減速をし始めていた。理由は4つ。
- 新興世界の大部分、特に中国と先進世界の賃金格差の縮小によるオフショア減少
- 製造業のオートメーション化による現地生産化
- 消費者の選択(輸送の環境負荷などに対するもの)
- 購買パターンの財からサービスへのシフト
次の30年に、国際貿易の性質は一変するだろう。財の貿易をさらに自由化するべきという考えは影を潜める。大量の財を船や飛行機で世界中に運ぶ必要がなくなるからだ。それに代わって現地生産に重点がシフトしていく。2050年には国際貿易の半分以上が財ではなくサービスになっている可能性が高い。需要の高いサービスは教育と医療だ。
この先、富は新興世界で生まれるようになっていく。貿易と金融のパターンは競争優位によって形作られていく。2050年には西側の経済力はまだ新興国よりも高いが、それでも優位性は小さくなるため、今の貿易と金融のパターンが大きく変わるのは避けられない。
④テクノロジー
テクノロジーが漸進的に進歩すると、一世代前にはお金持ちだけのものだった財やサービスを買う選択肢が中間所得層に与えられる。先進世界で生み出された技術で、新興世界の日常生活が変化する流れはしばらく続く。
私たちの社会に大きな影響を与えるテクノロジーの飛躍的進歩がどんなものになるかはわからない。しかし、それがどこからやってきそうか、最初にどこを見るべきかはわかる。その場所は5つある。
- エネルギー
- 医療
- バイオテクノロジー
- 脳科学
- 宇宙
⑤政府・統治
統治の一連の原則は、引き続きアメリカの慣行が基準になるものの、そこに他の要素も組み込まれるようになる。国際標準からの乖離は今以上に大きくなる。
これからの人口規模の差を考えれば、西側が世界全体の統治ルールを定めるべきだという考え方そのものが、だんだん時代錯誤に感じられるようになるだろう。それでなくても西側の考え方は変わっていく。