考える脳 考えるコンピューター

発刊
2023年7月22日
ページ数
384ページ
読了目安
491分
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推薦者

人間の脳はどのように機能しているのか
知能を持ったAIを作るためには、人間の脳の機能を理解しなければならない。神経科学者である著者が、人間の脳の仕組み、機能に関する仮説を説き、知能とは何かを新たに定義している一冊。

人間の知能や意識、創造性、記憶など、未だに解明されていない脳の仕組みについての、筋の通った仮説が提唱されており、人間の本質とは何かについて考えさせられます。

脳はどのように機能するのか

人工知能の研究者は脳のシュミレーションをしていないから、つくられるプログラムが知能を備えることはない。そもそも、脳がどのように機能しているかを解明しなければ、シュミレーションは不可能だ。

 

知能の働きのほとんど全ては脳の新皮質で起こっている。人間の脳の新皮質を平らに広げると、3000平方㎝、つまり大きめの食事用ナプキンほどの面積になる。新皮質にはニューロンがぎっしりとつまっており、約300億個のニューロンがあると計算される。

新皮質には共通の機能、アルゴリズムがあり、あらゆる領域がそれを実行する。領域のつながりが機能の違いや動物の種類によって異なっているため、そこに遺伝の働きがあることは認めなければならないが、新皮質の組織そのものは、いたるところで同じ処理を行っている。その普遍的な処理方法は、あらゆる種類の感覚系や運動系を働かせている。

領域を適切な階層につなぎ、感覚入力を流し込めば、周囲の環境が学習される。したがって、将来現れる知能を備えた機械には、人間と同じ感覚や能力を持たせなくてもいい。新皮質のアルゴリズムは、今までにない種類のセンサーから入力を受け取り、今までにない種類の問題を解くことができる。その結果、柔軟な真の知能が、生物の脳を離れて人工の皮質の上に出現する。

 

脳は複数の感覚を通して世界を知るが、その情報には現実の一部しか反映されていない。感覚器官が生成したパターンは新皮質に送られ、共通のアルゴリズムによって処理されて、現実世界のモデルを形成する。パターンを通して、新皮質は実物に類似したモデルを構築し、それを蓄える。脳は現実世界の重要な関係だけを、細部にかかずらうことなく記憶している。

記憶される形式は、関係の本質を捉えたものであり、ある瞬間の詳細ではない。人間が何かを見たり聞いたり、触れたりする時、新皮質は極めて具体的で詳細な入力を受け取って、それを普遍の表現に変換する。記憶も、それと比較される新しい入力パターンも、普遍の表現だ。記憶を蓄え、思い出し、比較する作業は、すべて普遍の表現のレベルで起こっている。これに相当する概念は、コンピューターには存在しない。

 

知能とは何か

人間の脳は、蓄積した記憶を使って、見たり、聞いたり、触れたりするものすべて、現実世界の構造そのものを、絶えず並列に予測している。それらのほとんどは無意識の内に行われる。そして、新皮質に記憶されていない何らかのパターンが目に入った時、予測はくつがえされる。予測と実際の差は注意を喚起し、意識はその予想外に引きつけられる。

予測は、新皮質の最も主要な機能であり、知能の基盤である。知能を備えた機械はどうすればつくれるのかを知りたいなら、予測の本質を明らかにし、それが新皮質でどのようにたてられているかを解明しなければならない。人間の行動でさえ、予測の副産物と解釈できる。

 

現実世界の認識も理解も、予測と密接に結びついている。脳は現実世界のモデルを構築し、それが正しいことを絶えず確かめている。現在どこにいて、何をしているのかがわかるのは、このモデルが妥当なものであるからだ。

予測が行われる対象は、見たり聞いたりする低レベルの感覚のパターンだけではない。人間の知能が他の動物より高いのは、より抽象的なパターンや、長いシーケンスの予測がたてられることによる。重要な点は、高レベルの知能も感覚の場合と何ら変わらない手順で生み出されることだ。つまり、基本的には記憶による予測という新皮質に共通のアルゴリズムが使われる。

 

知能の高さは、現実世界のパターンを記憶し、予測する能力によって測定される。その対象には、言語、数学、物体の物理的な性質、社会情勢なども含まれる。脳は外界からパターンを受け取り、記憶として蓄えることで、過去の経験と現在の事象を組み合わせて予測をたてるのだ。

人間の新皮質はとりわけ大きいので、途方もない記憶容量を持っている。視覚や聴覚をはじめとする感覚の予測を、大抵は無意識の内に絶えず行っている。こうした予測が人間の思考であり、感覚の入力と結びついた時は認識となる。

未来の出来事を予測するために、新皮質はパターンのシーケンスを蓄積しなければならない。適切な記憶を呼び戻すためには、類似性に基づいて、つまり、自己連想的に過去のパターンを引き出す必要がある。そして、最後に過去の出来事の知識を類似しているが同一ではない新しい状況に適用するために、記憶には普遍の表現が求められる。

 

脳の基本的な動き

新皮質の重要な機能が予測をたてるだとすると、脳のモデルには逆方向のつながりが必要になる。最初の入力を受け取る領域へと、情報を送り返してやる必要がある。予測をするためには、起きると思ったことと実際に起きたことを、比較しなければならない。実際に起きていることが階層を上がっていき、起きると思うことが階層を降っていく。順方向と逆方向の流れは、あらゆる感覚に存在し、新皮質のすべての領域で起きている。

 

新皮質には、現実世界の階層構造を極めて自然に発見できるような構造と学習手段が備わっている。どの瞬間にも、見たり、聞いたり、触れたりできるのは現実世界のきわめて狭い部分だけだ。そこで、脳に流れ込む情報はおのずとパターンのシーケンスという形になる。新皮質は、たびたび繰り返されるシーケンスを学習しようとする。もしもパターン同士に関連性が見つかり、それによって次に発生するパターンを予測できるなら、領域はそのシーケンスの永続的な表現、つまり記憶を形成する。シーケンスの学習は、現実世界の対象について普遍の表現を生み出す時の、最も基本になる機構である。

 

参考文献・紹介書籍