ローカル産業の問題をリアルとバーチャルの連携で解決する
今、世界は国際化からグローバル化、そしてリージョン化の時代へと変遷を遂げている。国際化の時代には、国境を維持した状態でモノの取引を中心に行っていた。次に起こったグローバル化で、国境なくボーダレスに人・モノ・カネ・情報などが取引される時代が訪れた。グローバル化の時代には、顧客に合わせてサービスを設計することが重要で、GAFAMに代表されるITプラットフォームが世界を席巻した。
そして現在、デジタル革命が起きたことで、個人が少人数でもできることが増え、地域特性に合わせたサービスが世界中で次々と立ち上がっている。つまり、グローバル化が発展する形で「リージョン化」が進展しつつある。リージョン化とは、全世界共通のサービスではなく、その地域ごとの特性に合わせたサービスを提供し、問題解決を図るというものである。
その対象となるのは、交通や医療、農業といったローカル産業である。これらの産業では、人が介在する「地上戦(リアル)」とデジタル技術による「空中戦(バーチャル)」の融合がない限り、イノベーションを起こすことはできない。そのため、現地のスタートアップや現地企業、財閥などが主体となる。
インドネシアを代表するユニコーン企業であるゴジェックは、オートバイの配車アプリから事業を開始させ、自動車の配車、食事や商品の注文・配達、清掃員やマッサージ師の手配など、次々とサービスの拡張を図ってきた。ゴジェックが提供するサービスの大半は、ユーザーと地域に既に存在している人や店をつなぐものである。そして、その過程で得たデータを有効活用することで、サプライチェーン改革や金融改革なども先導している。
こうした「半径5km圏内の問題解決」こそ、日本と東南アジアがリージョン一体となって起こせるイノベーションである。この半径5km圏内の問題解決は、ユーザーだけでなく、地域全体の問題を解決することにもつながっていく。
東南アジアのDX
DXとはデジタル技術を使ってイノベーションを起こすことである。デジタル技術を単なるツールとして捉えるのは間違いである。デジタル・フロンティアである東南アジアでは、オペレーション改善やストラテジーを実行する手段ではなく、デジタル技術によって社会を変革するイノベーションが生まれている。たとえば、シンガポール政府のデジタルツインは、デジタル技術を活用して生活者のデータを収集することで、結果として生活者の日々の生活を漸進的に改善するだけでなく、街自体の設計を抜本的に見直すことができるようになった。
東南アジアでは2010年初頭からの約10年で、以下の3段階でステージが変化してきた。
①銀行主導での消費者データの収集
2010年代初頭、インドネシアではスマホが普及しておらず、多くの消費者のデータは利用できる形では存在していなかった。この時代は、銀行がコンビニでのプリペイドカード販売や決済端末の設置など、積極的に消費者にリーチしていた。
②ユニコーン主導でのビッグデータの構築
スマホおよびそれを利用したスタートアップの登場により、銀行主導による地道な活動に終止符が打たれた。それを主導したのがゴジェックやトコペディア、ブカラパックといったユニコーン企業である。
③加盟店の支援による分散データのキュレーション
いかにユーザーにリーチするかという戦いの次に起きたのが、ARPUを上げるための戦いである。ここで始まったのが、経済圏構築のための熾烈な戦いである。そこで加盟店の数を増やすこと、加盟店ごとの売上高を上げる施策が行われた。パパママショップの支援によって、これまでバラバラに存在していたデータを1カ所に集約し、キュレーションすることで、サプライチェーンを一気に変革した。
このような動きは小規模な伝統的小売店や外食店が多い日本でも有効なイノベーションと言える。
リージョン型企業のデータ活用
ゴジェックやグラブといったスーパーアプリを主導するビッグデータ活用と取得は、GAFAMとは異なる。GAFAMが世界中のオンラインのデータを収集しているのに対して、ゴジェックやグラブは東南アジアのユーザーや加盟店のより多様なデータを収集している。
例えば、ゴジェックは、パパママショップや屋台の詳細な売上データだけでなく、バイクドライバーの顧客評価やトレーニング受講履歴、月間収入や預金額といった情報まで収集している。これはゴジェックが、ドライバーに対するトレーニングを実施するなど地道な改善活動をリアルでも行っているから実現できている。
これこそがGAFAMと、リアルとデジタルの融合でローカルの問題を解決するリージョン型企業の違いである。日本が目指すべきはこの方面でのビッグデータ活用である。