5つの脳力 5つの筋力

発刊
2023年8月2日
ページ数
592ページ
読了目安
681分
推薦ポイント 10P
Amazonで購入する

Amazonで購入する

これからの企業の真の競争優位とは何か
デジタル化だけでは、真の競争優位を築くことはできない。デジタルとフィジカルの両方の強みを相互に連携させることこそ、今後企業に求められることだとし、その要点と向かうべきポイントを紹介しています。

DXが叫ばれている中、デジタル化以外のフィジカルな側面も正当に評価し、それを活用することが大切だと説いています。特に大企業の経営者にとって、自社の経営を見直す視座を与える一冊。

デジタルとフィジカルの連携こそが最重要課題

デジタル化は極めて重要なトレンドだが、それだけがコンピテンシー(優れた成果を生み出す能力や行動特性)ではない。目立ちはしないが地に足のついた物流や製造などのコンピテンシーは、規模の大小を問わず今も企業の成功に欠かせない。デジタル変革が盛んに叫ばれる中、こうした昔ながらのコンピテンシーは見落とされやすく、正当に評価されていない。

 

「脳力」と呼ぶ領域と「筋力」と呼ぶ領域の間には、それぞれのカルチャーに大きな溝がある。この2つの概念は、デジタルとフィジカルなどと言い換えられる。今こそ両者の溝を埋め、この二項対立的な捉え方を見直すべきだ。現代の企業にとって真の競争優位とは、デジタルとフィジカルそれぞれの長所をどのように相互補完させるかを理解することだ。双方を連携させれば多くのことが達成できる。

 

脳力と筋力の基盤

事業を成功させるためには、脳力と筋力のベストな組み合わせが求められる。スピードや敏捷性やリスクテイクの許容といったデジタル系スタートアップ企業の特性と、事業遂行の体制、ベストプラクティス、長期的な顧客関係といった大手既存型企業の特性をうまく融合できるかがカギとなる。

「脳力」と「筋力」は次の10項目がある。これらのコンピテンシーをほぼすべて満たしている唯一の企業はアマゾンである。

 

①左脳:分析力

あらゆる製品やサービスで利用されつつあるビッグデータを使って、すべての企業が顧客により良いサービスを提供し、製品やサービスを改善し、コストを管理する戦略が必要となる。

 

②右脳:創造性

企業は成長するにつれ、効率的な事業拡大と業務効率化による競争優位のシステムやプロセスを開発していく。これらのシステムが、継続的なイノベーションの阻害要因になることが多いが、一部の成長企業は、様々な創造的方法を見出し続けることで、顧客のニーズを満たし新たなトレンドを先取りできている。

 

③扁桃体:共感力

共感力が高い経営陣は顧客や従業員、外部パートナーをよく理解し、相互の意思疎通を深めることに長けている。

 

④前頭前野:リスク管理

人間には生まれつきリスクを避ける性質がある。しかし、今日の多くの企業にとっては、リスク回避は重大な不利益となる。昇給や昇進といったインセンティブは、不確実なことに果敢に取り組む人ではなく、現状を維持する人が手にしがちだ。

 

⑤内耳:内製とアウトソーシングのバランス

どの企業も技術的解決策をすべて内製化することは困難になった。広範囲にわたるテクノロジー資産を所有すれば、顧客との密接か関係を築くことを向上できる一方、所有するテクノロジー資産の範囲を絞り込めば最も重要なことをより容易に獲得できる。両者のバランスを取ることが問題だ。

 

⑥脊椎:ロジスティクス

デジタル化が急速に進む分野でも、良質な顧客体験を提供するためには、強靭な物流やサプライチェーン、適材・適所・適時のエキスパートを持つことが不可欠だ。

 

⑦手:モノづくり

アディティブ・マニュファクチャリング(AM)やロボット組立ライン、3Dプリントなどの新しいテクノロジーが台頭し、今ではアメリカのような高賃金の国でもコスト効率の良い設計や製造が可能になった。モノづくり先端企業は、手頃な価格で大量生産を可能にする革新的な方法を見つけ出すことによって「腕」を磨いている。

 

⑧筋肉:企業規模の活用

生産量や生産規模を高め製品単位のコストを下げる「規模の経済」は、依然として競争優位の重要な要素であるが、地域、国、大陸に広がる組織を管理することは、かつてないほど困難になっている。グローバルな規模とローカル市場の特性に関する知見を同時に最大活用するには、強靭かつ俊敏な筋肉が必要となる。

 

⑨手と目の協調:エコシステムの管理

ビジネスエコシステムとは、関係者相互の利害を調整するために連携する組織の集合体だ。サプライヤー、チャネルパートナー、投資家、規制当局、競合企業の間の関係は変化するので、エコシステムの各メンバーの相容れないニーズを調整するにはジャグリングのような曲芸技が必要となる。

 

⑩持久力:事業の継続化

事業の長期的な存続は究極の課題であり、いかなる短期的な成功もそれを保証するものではない。良い時期、悪い時期が巡る中で、組織のレピュテーションやブランドを維持し続けるには、持久力が必要だ。

 

リーダーに求められること

今日のリーダーは、フィジカルとデジタル、全体と細部、横展開によってスケールメリットが期待できる汎用型ソリューションと顧客ロイヤルティを深める特化型ソリューションなど、明らかに二項対立的なものを同時に対処する能力を含め、これまでよりはるかに広範な専門知識とスキルが必要になっている。

 

リーダーは、まず次の4つの質問を自らに問うことから始めるといい。

  1. デジタルとフィジカルが結合するトレンドとは、顧客とその事業にとって何を意味するのか
  2. 自社の中核的な技術と顧客との関係は、競合に対してどんな優位性をもたらすのか
  3. 顧客は必要としているが、現在自社が提供していない製品やサービスはどのようなものか
  4. 変化の激しい時代に視野を広げ、状況を把握し、リスクを受け入れ、リーダーとして傑出した存在になるのはどうすればよいか