価格支配力とマーケティング

発刊
2023年6月30日
ページ数
596ページ
読了目安
729分
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高い収益を生み出すビジネスはどのように実現すればいいのか
需要や競争力に影響を与えずに価格を引き上げる能力「価格支配力」は、どのように成立するのか。企業が高い収益を得るために必要とする価格支配力を類型化し、それぞれのビジネスの特徴と戦略、事例をわかりやすく解説している一冊。

競争環境によって、値上げに苦労する企業、値上げに成功する企業の要因を理解でき、どのように価格をコントロールする力が生み出されるのかを理解できます。自社の事業の収益性を振り返り、新たな高収益事業を生み出すためのヒントになります。

価格支配力とは

事業を評価する上で最も重要なことは「価格支配力」だ。競合他社にシェアを奪われることなく価格を引き上げる力を有しているならば、その事業は極めて優良な事業と言える。もし、10%値上げする前に祈祷しなければならないのなら、それはひどいビジネスだ。

これは投資家に時折引用されるウォーレン・バフェットの至言である。

 

価格支配力とは「自社の提供物の販売価格を管理・決定・マネジメントする力」である。これは「需要を減退させてしまったり、競合他社にシェアを侵食されたりすることなく、利益を維持・拡大するために価格を引き上げる能力」とも定義できる。この価格マネジメントを放棄している企業を「価格無支配力企業」と呼ぶ。

企業がコストプッシュの圧力に抗いきれない場合に、単に値上げができればよい、という訳ではない。需要や競争力に悪い影響を与えることなく、値上げを行うことが重要だ。

 

企業は「マーケティング・イノベーション・マトリクス」の考え方をもとに価格支配力を創造することで、自社の提供物が顧客にとって不可欠なものとなり、業界全体のバリューチェーンの中でも稀有な位置付けを確立しなければならない。

 

マーケティング・イノベーション・マトリクス

マーケティング・イノベーション・マトリクスは、市場を4象限に整理する。縦軸では顧客ニーズの分散・集合度合いを取っており、分散化市場ほど顧客クラスターの数は多い。つまり、市場が細分化している。
横軸は売り手と買い手の力関係を表し、販売される商品が不足して、売り手側が価格や条件の決定権を持っている市場を「売り手市場」という。反対に商品やサービスの供給が需要を上回っていて、買い手が価格や条件を決める力を持っている場合を「買い手市場」という。

ここで打ち勝つためのポイントは「需給バランスの静的均衡」を打破することにある。

 

①分散×売り手市場:ハイエンド・ブランド商品

ハイエンド・ブランド商品の希少性を演出することで価格支配力を発揮できる。ミッションから生まれるブランド・ストーリーとそれを裏打ちする素材や技、象徴的な人物・歴史などがあって、そのブランドの良さを信じることに足る根拠のスジが良いかどうかで勝敗を分ける。ファッションのハイブランドや2輪車ハーレー、フェラーリのように顧客体験からのファン化が効果的な場合も多く、「超」上澄み価格を選択することが可能である。

需給バランスは商品カテゴリー全体では供給が上回っていても、特殊なニッチ市場ではユーザーに渇望感を演出できるかどうかが重要である。

ex.スノーピーク、ルイ・ヴィトン、フェラーリ

 

②集約×売り手市場:エントリー・バリア商品

規制や許認可、差別化技術、特許、ネットワーク効果、資源の独占、高いスイッチングコストなどによる参入障壁の構築によって寡占できる商品を指す。こうした代替の利かない提供物が自社にあれば、売り手優位の価格支配力を創造できる。

ex.キーエンス、日東電工、ニンテンドースイッチ、Windows

 

③分散×買い手市場:ピンポイントニッチ商品

ピンポイントニッチ商品では、n=1で顧客インサイトを掴み、ピンポイントで「あなたのため!」とプロダクト/コマーシャル・イノベーションを狙う。汎用的な顧客へのソリューションではなく、ピンポイントのペインにフォーカスし、特定顧客のマインドシェアを深いところまで獲得して、高付加価値を提供する。

ex.小林製薬、クラシコム

 

④集約×買い手市場:マス高付加価値商品

買い手市場の常識に従順な価格無支配力の競合が多ければ多いほど、ビジネスチャンスがある。買い手市場では競合製品が多いので、STPB(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、ブランディング)が効いてくる。

マス高付加価値商品においては、マーケティング・イノベーションを十分に活用し、一定規模の市場を狙っていくことを前提とする。その上で、価格にダイナミック・プライシングや、サブスクリプション制など、顧客にペインを感じさせない仕組みを導入し、マス向けの浸透価格設定とハイエンド向け上澄み価格設定の中間にある、最適なプライシング「ブリッジ・ベター価格設定」で高利益を獲得する。ブリッジベター価格設定は需給バランスが変化しやすく、グレーゾーンの価格戦略だ。顧客価値創造をしながら価格支配力を持つという、バランスの妙が鍵となる。

ex.アパホテル、テスラ、ネスレ

 

価格支配力を実現するには何が必要か

価格支配力を確保するための方策の1つは「市場自体を自社が新たに創造し、その商材やサービス領域における最初の値付け者になること=First to Market」だ。これを実現するには、次の2つのプロセスが必要である。

  1. バックキャスト:徹底的かつ客観的な未来洞察を行い、その未来から振り返った時に自社がすべきことを考える
  2. シナリオプランニング:時代の変化を分析し、何パターンのシナリオを考えておけば想定外がないのかを考える