世界最高峰の経済学教室

発刊
2023年7月6日
ページ数
448ページ
読了目安
693分
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世界の最先端で経済学者は何を研究しているのか
ノーベル経済学賞受賞者をはじめとした世界の最先端で研究する経済学者11人へのインタビューを通じて、その研究内容がまとめられた一冊。

「経済学は何の役に立つのか」という視点から、第一級の経済学者たちが何を研究しているのかが、わかりやすく紹介されています。日本は経済的にこれからどうすべきかなど、示唆に富んだ様々な意見が書かれています。

高齢化社会の「人的資本理論」(ゲイリー・ベッカー)

人材を経済成長に必要な「人的資本」と見なす発想は、ゲイリー・ベッカーが構築したものの1つである。人を「資本」と見なし、専門的なあるいは一般的な教育という形に「投資」することで、経済成長や人口構成にどのような影響を与えるのかを理論的・実証的に分析した。

教育をリターンの期待できる「投資」と見なし、教育を受けた者と受けていない者の賃金格差を収益と見なす。高い学歴を得るためなど教育の投資収益率が高いことが教育投資を動機づける、と考える。人的資本の生産能力を高めることで高い「リターン」が得られることは、ベッカーらの研究が明らかにしたものである。

 

考える力を育てる質の高い教育は、経済成長にとって大変重要である。数多くの研究に裏打ちされたことでもあり、教育は経済成長にとって重要なことの1つだと研究でも実証されている。次から次へと新しい技術が生まれる現在の世界では、教育を受けた人の方が、新しい技術をより使いこなせることもわかっている。

新しい技術を生み出す人もまた、教育を受けた人だ。また、教育を受けた人の方が、新しい環境により早くなじめる。より柔軟なのだ。

若者の減少は、日本にとってとりわけ試練だと言える。企業は2つのやり方で計画し始めなければならない。

  1. 外国人や移民を労働力として取り込むこと
  2. 社員が60歳を超えても働き続ける前提で社員に投資すること

確かに年を取れば取るほど、生産性が落ちてしまうことは避けられない。この点については、最新の教育プログラムによる再トレーニングで克服することができるだろう。つまり、年長の働き手に最新の情報を与えるのだ。

費用対効果を考えれば、年長者はリストラの対象になるのかもしれない。しかし若者を雇いにくくなる以上、企業も年長の人々の雇用を維持した方が、費用対効果が高まると考え始めるようになるだろう。

世界は変わり続けており、常に新しいことを学び続けなければいけないことを、誰もが肝に銘じておけばいい。人的資本はコストであるだけでなく便益でもある。そして、より生産性が高まったなら、より多くの賃金を支払うべきだ。そうすればさらに生産性が高まり、企業が得るものも増える。

 

現代は「知識経済」の世の中だ。高等教育は、知識を与えるだけでなく、どうしたらもっと知識が得られるかを教えてくれる。教育を受けた人はどうやってGoogleとインターネットを活用したらいいかを、教育を受けていない人よりも理解している。

 

高齢化から付加価値を生み出せ(ジョセフ・E・スティグリッツ)

ジョセフ・E・スティグリッツがノーベル経済学賞を受賞した理由は「非対称情報による市場の分析」だ。取引するもの同士で、モノやサービスの質や価格に関して情報量の差があり、望ましい取引ができないことなどを説明する研究である。

スティグリッツは、情報不足で不利な状況に置かれている個人が、市場での地位を向上させる上で何ができるかを調べるため、保険会社のスクリーニングを研究。保険会社が顧客をリスク別に分類するスクリーニングと自己選択を通じて、足りない情報を間接的に取り出せることを発見した。

 

スティグリッツが提唱するのは、個人に個別に働きかけるメソッドではなく、社会をシステムとして捉えた上で生産性を高める手立てを打ち、イノベーションを起こす「学習する社会」の構築だ。特徴的なのは、政府の介入の重要性を説いてることである。

スティグリッツは「情報と同じで、知識にも非対称性がある」と指摘する。「移動可能性とオープン性が高い経済は、このような他者からのラーニングが多い可能性が高い」と指摘した。

 

日本は、洗練された技術を生み出してきた長い歴史があるが、それほど破壊的なイノベーションだったわけではない。2つの側面がある。1つは、日本はもっと大学に投資すべきだ。もっと英語を学んで、国際的な科学者のコミュニティと一体化するための投資が必要だ。なぜなら、イノベーションを起こす上でそれが障害になっているからだ。政府が基礎研究や応用研究をほとんどサポートしないのであれば、社会の生産性を高めるイノベーションを起こすことが大切になる。

日本はすでに人口高齢化に対応するためのイノベーションを実践している。どうやって高齢者の健康を機械でサポートするかとか、よりモノを正確に計測できる道具を開発するかとか。日本が、その環境を生かしてヘルスケアについて新しい機械や技術で高齢者に届ける方法を開発できたら、世界にとっても恩恵となる。