DXの大部分は失敗している
企業のデジタル化予算は2016年度からほぼ横ばい状態にある。ここから想像できるのはDXに取り組もうとした企業が早々に離脱しているということだ。DXを継続的に行うには、業務のプロセスから変革していく必要がある。1年などの短期間で終わることはなく、中長期にわたって改革を行い、予算は右肩上がりになるはずだ。多くの企業はデジタイゼーションでDXをやった気になり、継続することもなく、終了してしまっているのではないか。
一部門から始めて徐々に拡大させる積み上げではDXを達成できない。まずは、企業としてDXで何を目指すのか、そのために何を行わなければならないかを明確にした上で、デジタイゼーションすべきこと、デジタライゼーションとして実施するものを決めていく。その先に初めて、DXをどう達成するかの道筋が見えてくる。経営者は、どこがデジタル化されると企業は活性化されていくのかを考える必要がある。
失敗原因を究明する方法
DXを取り巻くIT業界では失敗の原因を長い期間をかけて検証する習慣があまり根付いていない。新しい技術や製品、サービスが常に登場し続けているという事情もあり、それらを活用して企業の業績拡大などにつなげる方を優先する傾向が強い。
そこで、真の失敗原因にたどり着くためのツールとして「ITプロジェクト版失敗原因マンダラ図」を提唱している。失敗事例から54の失敗原因を抽出し、失敗原因を網羅している。失敗の中でも上位レベルは以下の10項目である。
<個人に関わる原因>
無知:世の中に知られている解決法を本人が知らない。
不注意:十分配慮していれば防ぐことができる注意を怠る。
誤判断:状況を正しく捉えられない、または思い違いなどで判断を誤る。
手順の不順守:約束事や習慣・規則を守らない。
<プロジェクトに関わる原因>
企画・計画不良:企画や計画そのものに問題がある。
調査・検討不足:決定に至るまでの検討が不十分。
プロジェクト運営不良:プロジェクト運営の体制や手順がきちんと物事を進められる形になっていない。
<組織に関わる原因>
環境変化への対応不良:当初想定した条件が変化しているのに対応が不十分。
価値観不良:価値観が周囲と食い違っている。
<未知の原因>
未知:誰も知らない事象が発生。
失敗原因を究明するのは、失敗原因マンダラ図を使い、以下のステップで進める。
- 「失敗原因マンダラ図」から全ての失敗原因を抽出する
- 抽出した失敗原因を集約する
- 失敗原因を整理する
- 真の失敗原因を特定する
- 再発防止策を検討し蓄積・活用する
DXが失敗する5つの原因
DXの失敗には、DX特有の事象があるわけではない。失敗学から考察する失敗の真因は次の5つである。
①間違った顧客思想
DXの最終ゴールがDXを管理するプロジェクト統括者に知らされていないことがある。結果として誤ったゴールが設定されてしまい、ゴールした連絡を行った途端に「違う!」となってしまう。解決方法として、経営者自らが具体的なゴールをプロジェクト開始前に伝えることが必須である。つまり、経営者はDXとしてやらなければならないことをヒアリングし、それをメンバーとコミュニケーションを取りながら形にしていくことが必要である。
②想像力不足、コミュニケーション不足
DXを理解できていないことから、世間体の良い、大きなシステムの再構築=DXであると間違ってしまう。プロジェクトメンバーの感覚で目標を設定してしまうことで「便利」「快適」でない業務を想像し作り出す。利用ユーザーから不満が爆発し、最終的には利用されない結果となる。
まずは「便利」「快適」でない業務を洗い出すことがDXへの第1歩だ。その上で、経営者として、ビジネスモデルをどのように変革するためにデジタルをどう活用させたいか、ということになる。
③スコープ不良、標準化不足
短期間で目に見える改革を成し遂げようと焦るあまり、現場の業務プロセスのままDXに移し替えようとしてしまい、利用されない結果となってしまう。この問題に対しては、経営者がDXを実践するメンバーと一緒に検討作業をすることで目線を下げ、認識を共有していくことが必要である。
④コスト不良
DXによるビジネスモデルをプロセスとしてフロー化していないために、どこまでもDXにゴールがなくなってしまい、コストだけが増大してしまう。解決方法は、経営側がDXの目標を明確にすることである。どこにゴールを設定するかで、コストは自ずと決定できるはずである。
⑤スケジュール不良
DXを行ったが「いつまでに」という期限のゴールを明確化していないために、どこまでも開発が続いてスケジュールが延伸してしまう。一旦デジタル化が始まると終わりがない。解決方法は、DXのマイルストーンを決めることである。