生成AIとは
これまでのAIは、チェスや将棋のように、膨大にある選択肢の中から最適な方法を選ぶことや、顔認識のように、複雑で大量のデータの中からあるパターンを認識するということを得意としていた。一方で、最近登場した新しいAIでは、事前に膨大な量の情報を学習した上で、利用者の指示を受けて新たなコンテンツを生成する。このようなAIを「生成AI(Generative AI)」と呼ぶ。生成AIの代表例には次のようなものがある。
- 文章生成AI:ChatGPT、BingAI等
- 画像生成AI:Stable Diffusion、Midjourney等
- 動画生成AI:Make -a -Video、Imagen Video等
- 3Dモデル生成AI:DreamFusion、Magic3D等
- 音楽生成AI:CREEVO、SOUNDRAW等
今後、これらのAIを組み合わせたり、検索サービス等の既存サービスと融合したり、PCやスマホのアプリと連携したりすることで、これまでには実現できなかった新サービスがどんどん提供されることになるだろう。
ChatGPTの出現
OpenAIは、サム・アルトマンや、イーロン・マスク等によって設立された新しい組織である。OpenAIが生み出すAIの中でも、早い時期から注目を集め続けていたのが文章生成AIであるGPT。利用者の質問や依頼に対して、流暢な自然言語で的確に答えることができるというのが最大の特徴である。2022年11月にはChatGPTを一般公開し、約2ヶ月で登録ユーザーは1億人を超えている。
ChatGPTでは、回答は事前に準備されているものではない。どんな質問に対しても、その場で情報をつなぎ合わせて、文章自体を新しく作り、かなり的確な回答を返す。現時点では、内容が事実なのか事実でないのか、区別がつかず、不正確なことも最もらしく回答してしまうことが問題である。
このような現象が起こる原因は、文章生成AIの仕組みにある。文章生成AIの基本原理は、「似たような言葉を探して、つなげていく」こと。例えば「フライパン」「燃えるゴミ」といった単語に対して、その単語と関係性の強いものを次々と選び出し、言葉を数珠つなぎにしていく。原理は単純だが、莫大な量の学習データと、計算量の学習作業、最先端のAIエンジニアの創意工夫によって、自然な文章を生成できている。
文章生成AIは、与えられたテーマに基づいた連続する文章を生成することも得意としている。小説、レポート、読書感想文、メール返信案、音楽の歌詞など、様々な文章を自動生成させることができる。また、逆に長い文章からその要点を抜き出し要約したり、読みやすくしたり、丁寧にしたりすることもできる。だからこそ、文章生成AIはビジネスにも実用的に活用できると期待されている。
OpenAIは、この技術が文章生成以外にも応用できることを早期から示している。この技術のコアは、前半と後半に分けてみることができる。
- 前半:インプットされたデータをAIが理解できる形に解釈する機能
- 後半:その解釈に基づいて新たなデータをアウトプットする機能
このデータは、テキストデータに限らない。ここで後半部分で生成するデータを画像にすれば、画像を生成するAIになる。
生成AIの可能性
私たちがインターネットの情報を探す一番の入り口は検索エンジンだった。その検索エンジンの役割が抜本的に変われば、私たちがインターネットを利用する方法も大きく変わる。
検索エンジンは、利用者自身がそこに示されたリンク先のウェブページを読み込んで、探したかった情報を発見するという手間が必要である。一方で、文章生成AIを使えば、質問をするだけでダイレクトに探していた情報を入手できる。生成AIが評価するのは、情報の表面だけではなく、情報そのものすべてである。この段階になると、これまでSEO対策や広告に依存していた人たちが全く通用しなくなる。
検索エンジンが使われなくなった世界では、アシスタントAIというサービスに光が当たるかもしれない。生成AIの技術は、音声アシスタントの機能を一変させる。自然な会話で人間と受け答えを行い、人間が意図したことを実行できるようになる。
生成AIの能力をさらに向上させるには、AIとしての性能を高めていく方法と、パーソナライズによるAIの能力を高める方法がある。個人の好み、経験、考え方、価値観など、様々なデータを背景にして、その個人に特化して対応するという方法である。スマホに搭載されたアシスタントAIが、利用者の日々の質問や依頼事項に答えながら、利用者の行動履歴や考え方を学習し続ける。その学習が進むほど、利用者に取って手放せないAIになる。
問題は、どの企業が最初の実用的なアシスタントAIを出して、デファクトスタンダートを握るか。マイクロソフトやGAFAも含めて、数多くの企業が将来の覇権を目指して争うことになるだろう。