ジョナサン・アイブ

発刊
2015年1月9日
ページ数
400ページ
読了目安
604分
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アップルのカリスマデザイナーの哲学
iMac、iPhone、iPad、MacBook Airなど数々のアップル製品を創り出してきたデザイナー、ジョナサン・アイブの伝記。その生い立ちから、デザイン哲学が紹介されています。

生い立ち

ジョニーは子供の頃からいつも、もののしくみを知りたがった。ものの構造に興味を持ち、ラジオやカセットレコーダーを慎重に分解しては、それがどんな風に組み立てられているか、部品がどのようにつながり合っているかを確かめていた。銀細工の職人だった父親のマイクは、ことあるごとにデザインの話題にジョニーを引き入れ、息子の興味を育てていた。マイクのクリスマスプレゼントは、自分の工房を息子に好きなだけ使わせる事だった。但し、マイクは1つだけ条件を出した。作りたいものを手で描くこと。「昔から手作りのものは美しいと感じていた。本当に大切なのは、そこに込められた手間と心配りなんだ」とジョニーは語っている。

 

16歳にして、ジョニーの才能はデザイン業界の注目を集めていた。ジョニーはウォルトン高校で質の高いデザインテクノロジー教育を受け、成績は全国でも上位12%に入っていた。どの大学でも選べたが、ニューカッスル・ポリテクニックに進み、プロダクトデザインを専攻した。

 

それがどうあるべきか

ジョニーが受けたデザイン教育はドイツ的なアプローチが基になっている。過去の上に積み重ねるのではなく、白紙のページに描く。デザイナーは必要なものだけをデザインすべきだというミニマリスト的な哲学は、ドイツの伝統教育の流れを組み、ジョニーのデザイン哲学もまた、その事を強く意識している。

 

ジョニーは学費を援助してくれたRWGでインターンとして働いた。そこでジョニーがデザインしたペン、TX2が製造される事になった。インターンのデザインが生産されるなど前代未聞だった。大学卒業後、ジョニーはRWGに入りよく働いた。しかし、RWGは業績が苦しくなり、タンジェリンに移った。電動工具から櫛からテレビ、トイレまで、ありとあらゆる仕事を引き受けていた。

 

ジョニーは、あるべきものを正しく作ること、それが目的にかなっている事をいつも気にかけていた。彼の関心は、テクノロジーに人間味を持たせる事だった。「それがどうあるべきか」が常に彼のデザインの出発点だった。どんな既存製品があるかや、エンジニアが何を望んでいるかを排除する能力がジョニーにはあった。彼はプロダクトデザインやユーザーインターフェースデザインの根本に立ち戻る事ができた。

 

アップル入社

1992年、27歳のジョニーはアップルに入社した。当時のアップルはデザインをフロッグに外注していたため、社内にデザイナーはいなかった。そこで、ロバート・ブルーナーは才能あるデザイナーを採用し、チームを作り、その内の数名はアップルに何十年も残ってiPhoneやiPadを含む一連のヒット商品を生み出した。ブルーナーはエンジニアリングからデザインに力を取り戻したかった。そこで、エンジニアリング部門からスタジオを切り離し、ゆるやかな組織構造、協調的な仕事の流れ、コンサルタント的な考え方を取り入れた。アップルのデザインチームが今も成功し続けているのは、この構造を引き継いでいるからだ。

 

ジョニーのアップルでの最初の大仕事は2代目ニュートン・メッセージパッドのデザインだった。そして、ジョニーは業界の権威ある省を次々と受賞した。

 

デザイン主導の文化へ

1997年、経営不信に陥っていたアップルにスティーブ・ジョブズ復帰する。彼は工業デザインをアップル再建の核に据える。ジョブズにとって、デザインは見かけ以上のものだった。「みんなはデザインをお化粧だと思っている。それはデザインじゃない。外見と感覚だけじゃないんだ。デザインは、ものの働きなんだ」と言っていた。

 

そして、ジョブズはジョニーを気に入り、スタジオをそのまま任せる事にした。その後、iMacとiBookの成功が、アップルのエンジニアリング主導の文化をデザイン主導へと変えた。

 

一点集中の哲学

アップルが潰れそうになった時、ジョニーがジョブズから学んだ教訓がある。

 

「アップルは倒産寸前でしたが、人間が死を通して生についての多くを学ぶのと同じで、死にかけた会社から命ある企業についてたくさんの事を学んだ。もう少しで倒産という瀬戸際に立たされれば、少しはお金を儲けようと考えるのが普通である。だが、スティーブの頭にあったのは違う事だった。製品が良くなかった、だからもっといい製品を作るんだ、というのが彼の答えだった」

 

ジョニーは、ジョブズの一点集中の哲学を大切に守っている。ジョブズはいつも、集中とはイエスという事ではなく、ノーという事だと語っていた。ジョニーの指導のもと、アップルは「そこそこにいい」ものであっても「偉大な製品」でなければ却下する事を厳しく自分達に課している。

 

ジョニー・アイブに1つだけ秘訣があるとすれば、それはシンプル化の哲学に奴隷のように従っている事だ。失敗もあれば発表にいたらない製品もあるが、多くのブレークスルーを生み出してきたのは、この姿勢だ。膨大な時間と労力を費やして隅々にまで気を配り、物事を正しくやり遂げる。それがジョニー流の作法なのだ。

 

ジョニーの究極の目標は、デザインを消す事だ。ユーザーがデザインを意識しないこと、それがジョニーにとって一番うれしい。目標は、シンプルなもの、持ち主が思い通りにできるものだ。デザイナーが正しい仕事をすれば、ユーザーは対象により近づき、より没頭するようになる。例えば、新しいiPadのiPhotoアプリにユーザーは我を忘れて没頭し、iPadを使っている事など忘れてしまう。