メンタルの守り方が大切
メンタルは鍛えることが難しい人間の急所である。メンタルの不調がもたらす苦しみからは逃れることはできない。そこで大切なのは、急所を突かれても大きなダメージを受けないように、急所(メンタル)の守り方を身につけることである。
実際のところ、急所をうまく守れているアスリートはいる。メンタルが強いわけではないものの、意識的な思考や行動によって、受けるダメージを最小限にしたり、受けたダメージを上手に扱うことで、メンタル不調に陥らないようにすることができる。
メンタルトレーニング
①「わからない」を減らす
人が恐れを抱いたり、心配するのは「わからない」ことが多い時である。回避できないのであれば、次にやるべきことは「わからない」を減らすことである。
アスリートにとっての試合とは最後まで「わからない」ものである。そのためアスリートは非常に強いストレスを抱える。そのためアスリートは少しでも「わからない」を減らして試合に臨もうとする。
「わからない」は、次の4つに分類することができる。
- 自分:自分についてわからないことを減らす
- 他者:他者についてのわからないことを減らす
- 思考:考え方のバリエーションを増やして考える力を高める
- 行動:行動することによってわからないことを減らす
それぞれのアプローチによって、自分の中にある「わかる」を増やしていく。
②具体をいち早くつかむ
「何だか不安」と感じる時には、環境の変化を意識することから始める。何がどう変化しているのか、変化の具体的な内容がわかってくると、それだけでも気持ちは少し落ち着く。
違いを認識したら漠然と受け止めるのではなく、何がどう変わったのか、どれくらいの差異があるのかをすぐに理解することから行う。変化の内容がわかると、表面的なことだけではなく、変化の背景や理由にまで意識が向くようになる。すると、次の変化も予測しやすくなり、新たな変化へ準備する力が備わる。
③いつも「本番」を意識する
アスリートがプレッシャーに打ち勝つために日頃から実践しているのは、本番を意識すること。些細なミスが命取りになるという緊張感を持って、試合での本番をイメージして練習する。そうした緊張感の習慣化は良い意味での慣れを作り出す。切羽詰まった場面を繰り返した経験値は心のお守りになるので、本当に大変なことが起こった時でも慌てずに落ち着いて向き合えるようになる。
さらに効果的なのは、場数である。大舞台での選手たちの極度の緊張感は経験者にしかわからないが、経験することでわかるようになるものでもある。緊張感あふれる場に何度も立てば、本番の重圧への向き合い方や緊張感の逃し方に慣れていくことができる。
④MUST思考にならない
「やる気」とは気持ちであって、自分の内からわき起こる内発的なものである。自分の内側からやる気を起こしやすくするためには「〜ねばならない」「〜すべき」というMUST思考にならないことである。完璧にやらなければなど、義務感が先に立ち、やる気は萎んでしまう。
MUST思考の反対は「oh well(仕方がない)思考」。何かあっても「まあ、しょうがないか」と受け流すことができれば、前向きに次へと進みやすくなる。
⑤リスクを遠ざけ、リカバリーの選択肢を持つ
アスリートは、リスクになりそうだと感じるものは手当たり次第に遠ざける。例えば、練習や試合前の食事では、加熱していないメニューやアレルギーが起こる可能性が高い食べ物、誰かが開封済みの食べ物は口にしない。想定される危険は、それがわずかな可能性であっても近づかない。意識的に距離を取ることによって、自分の心の落ち着きや安全を優先させる。
それでもリスクの可能性はゼロにはできないので、次に起きてしまった時に「どう対処するか」の事前の把握を行う。リカバリー(回復・復旧)までの道筋をあらかじめ想定しておく。
⑥点ではなく線で考える
アスリートも人間なので、準備万端でない時や不調続きという時もある。それでも、いつもと変わらずに「今が自分史上の最高・最強」だと言い聞かせて試合に臨む。このようにアスリートが自分を信じる力を持っているのは、起きたことの1つを点ではなく線で捉えているからである。たとえ試合で1つミスをしても、その結果ですべてが終わるわけではない。次のチャンスは必ず来る、次も点を生み出して線の先端に繋げば、その線はさらに長く伸びていく。そうした意識によって前へ進んでいける。
⑦不安になる隙をつくらない
沈みがちな気持ちを引き上げるには、考えるよりもまずは体を動かすこと。体を動かすと血流が良くなり、脳にも多くの酸素が届けられる。脳が活性化すると、安らぎの感情をもたらすセロトニンなどの神経伝達物質が増える。非常にシンプルだが、不安になる時間をつくらないことが効果的である。