アント・フィナンシャルの成功法則 アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業

発刊
2018年12月27日
ページ数
360ページ
読了目安
448分
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中国最大規模のユニコーン企業の創業物語
9億人以上のユーザーを持つ中国の決済アプリ「アリペイ」を展開する、アント・フィナンシャルの創業物語。

湖畔花園のプロジェクト

タオバオは2003年5月にアリババが投資して設立されたC2Cのウェブサイト。現在では中国で知らぬ者のないこの企業の創業期のオフィスは杭州市湖畔花園の住宅地区にあった。湖畔花園は、杭州の西部にある「アリババ発祥の地」である。アリババグループの創始者であるジャック・マーは、1990年代末に、湖畔花園小区の16棟1区画202号室を購入した。この150㎡の住宅が、1999年にアリババ創業の事務所となった。アリババが成功した後、2003年にジャック・マーは、社員を集めて湖畔花園の2階建て一棟の住宅で秘密裏に新しい事業を始めさせた。

当時、B2B事業を中心としていたアリババは、中国のインターネット業界でまだトップではなかった。イーベイが中国に参入するという情報はジャック・マーの神経を刺激し、彼はC2Cサイトの制作について考え始めた。これがタオバオだ。当時、ジャック・マーは、イーベイが中国でビジネスを展開するなら、小売業から始め、それからアリババと競合するB2B事業に参入するだろうと考えた。競争が避けられない状況のもと、アリババがイーベイを小売業界に釘付けにしておこうと思うならば、できることは自らもC2Cサイトを開き、直接戦うことだった。

アリペイの始まり

タオバオができた当初、売り手と買い手の間に信頼が欠けるという難題に直面した。中国人の伝統的な商習慣において「一方の手で代金を払い、もう一方の手で商品を受け取る」というのは絶対的である。しかし、オンライン取引においてはこの取引の伝統が妨げとなった。売り手は商品を送っても代金が受け取れないことを心配し、買い手は代金を払っても商品が発送されないことを懸念した。タオバオを発展させるには、買い手と売り手の信頼関係の構築が必要だった。

代金の安全さえ確保されれば、ユーザーはタオバオを使う気になるはずだ。タオバオが担保取引に基づいた支払いツールを開発すれば、問題は解決するだろう。タオバオは買い手の支払い情報を受け取った後、売り手に出荷するように通知する。商品が届き、買い手がその商品が説明と合っていることを確認すると、そこでタオバオは売り手に代金を振り込む。

取引の本質は信頼システムだ。担保取引は、まさにこの信頼システムを提供する。信頼があれば、赤の他人同士でも売買ができる。多くの国でオンライン取引が発展しないのは、システムのイノベーションが足りないからだ。今日、担保決済の取引モデルはタオバオの安定的な取引のベースとなっている。この担保取引という小さな変革が中国のオンラインビジネスの新時代を開き、アリペイ創業の始まりとなった。タオバオチームはこの担保取引に基づいたサービスを「アリペイ」と名付けた。

2003年、タオバオが立ち上がった頃、国内のネットショッピング市場はまだ小さく、C2Cサイトのeコマース取引額は11.6億元前後だった。取引の支払い方式は、代金引換、銀行振替、ネットバンク支払いなどだった。
その十数年後の2016年の独身の日、アリペイが処理した累計取引数は10.5億件に到達した。支払い値のピーク値は1秒あたり12万件で、この数値はすでに決済業界の巨頭VISAを超えていた。

脱タオバオ

アリペイは、タオバオのためにサービスすると同時に、より多くの外部ショップを開拓しようと考えていた。実際それが、ジャック・マーがアリペイをタオバオから独立させようと考えた1つの理由だった。

会社の上下が共に苦労して、「脱タオバオ」は長足の進展を見せた。アリペイは迅速に行動し、旋回が早い。これは企業文化のおかげである。アリペイの文化はシンプルで、自分のことはあまり考えず、会社に何か命じられたらすぐに鞄を持って出て行くというものだ。これはアリペイの文化でもあり、アリババの文化でもある。

アリババの価値観には、GEの元社長ジャック・ウェルチの面影を見ることができる。当時のGEは36万人を率い、全世界200以上の国や地域のスタッフを管理していたが、その管理の拠り所になっていたのが、価値観を広め、維持し続けるということだった。