ユーザーに価値があってこそイノベーション
「イノベーション」という言葉は日本では技術革新の意味に用いられる事が比較的多い。しかし「イノベーション」とは次のように定義される。
「物事に新しいやり方を採用し、ユーザーに価値を提供するもの」
この定義には「ユーザーに価値を提供する」という言葉が入っており、さらに「技術」という言葉が入っていない。イノベーションは、ユーザーに価値があって、初めてその意味がある。技術革新が起こっただけではイノベーションが起こせた事にはならない。
日本はシリコンバレーから見て、技術革新という点で、決して遅れているように思えない。しかし、技術を元に「ユーザーに価値を提供する」という点が苦手である。日本の発想は、まず何か革新的な技術を作ろうという事で技術開発に走る。そして、面白い技術ができた時に何に使うかで行き詰まる。シリコンバレーの発想は逆で、世の中の人々のニーズは何か、ウォンツは何かというところから出発し、それに必要な技術は何かを発想している。
技術イノベーションに必要なもの
スタンフォード大学の付属機関として設立されたSRIは、技術イノベーションの会社として有名だった。パソコンのマウスとGUIの開発、インターネットの前身であるARPANETの開発は、世の中を一変させた技術イノベーションである。このような技術イノベーションがどのようにして始まり、広がっていったのか。当時の人々が要因として挙げたものが次の通り。
①ビジョンとパッション
将来を見据えた明確なビジョンを持ち、それに向けて進むパッションのある人間の存在が大きい。
②継続させる戦略的アプローチ(ブートストラップ)
最初に何か小さなものを作り、それを元により大きなものを作る、それを繰り返す。
③突飛なものをつぶさない会社、上司
技術イノベーションを実現するためには、周りの協力も重要である。技術イノベーションは、突飛なもので、凡人には理解しがたく、非現実的に見え、その結果つぶされやすい。このようなものをつぶさない会社、上司が重要である。
④突飛なものを支持する資金提供
イノベーションに必要な5原則
SRIは、技術イノベーションをビジネスとして成功させるために、その仕組みをゼロから作り上げる必要があった。そこでSRIは、イノベーションに必要な5つの原則を挙げている。
①重要なニーズ
②価値の創造
③イノベーション・チャンピョン
④イノベーション・チーム
⑤組織のアライメント
SRIは技術開発に強く、技術イノベーションに強い組織にもかかわらず、ニーズの重要性からスタートしており、ユーザーにとって、何らかの価値を創造する事の重要性を強調している。
ビジネス・アイディアを成功させる流れ
SRIにおけるビジネス・イノベーション・プロセスとして、注目されるのは、技術イノベーションから生まれたビジネス・アイディアをいかに本格的なビジネスとして成功させるかという点だ。その流れは次の通り。
①技術を元に、ビジネス・アイディアを構築する
②その構築されたビジネス・アイディアを、NABC分析する
③NABC分析を元に、ビジネス・アイディアを修正し、NABC分析を繰り返す
④満足いく結果が出た段階で、ベンチャーキャピタルから投資を受け、会社をスピンアウトする
NABC分析
NABCとは「ニーズ」「アプローチ」「ユーザー価値」「競合」の略。
①ニーズ
本当にユーザーは、そのようなニーズを持っているかを確認する。
②アプローチ
どのように開発した製品・サービスを市場に出すかを検討する。
③ユーザー価値
製品・サービスにいくらなら払ってもいいと思うかが調べる。
④競合
競合が、どれくらいの期間で追いついて来られるかを検討しておく。