ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

発刊
2014年9月25日
ページ数
256ページ
読了目安
326分
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成功する起業に共通する法則
Paypalを創業し、後に投資家としても成功しているピーター・ティールがスタンフォード大学で語った起業講義。

ゼロ・トゥ・ワン

未来を考える時、私達は未来が今より進歩している事を願う。その進歩は次の2つの形のどちらかになる。

①水平的進歩:成功例をコピーすること、1からnに向かうこと
②垂直的進歩:新しい何かを行うこと、ゼロから1を生み出すこと

 

新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がnになる。だが、私達が何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、全く新しい、誰も見た事のないものが生まれる。この新しいものを生み出すという難事業に投資しなければ、アメリカ企業に未来はない。

 

ゼロから1を生み出す垂直的な進歩を一言で表わすと「テクノロジー」になる。テクノロジーとはコンピュータに限らない。正しくは、物事への新しい取り組み方、より良い手法はすべてテクノロジーだ。

 

ゼロを1にするために必要な考え方

シリコンバレーの起業家達は、ドットコム・バブルの崩壊から4つの大きな教訓を学んだ。それが未だにビジネスを考える時の大前提となっている。

 

①少しずつ段階的に前進すること
小さく段階的な歩みだけが安全な道だ。

 

②無駄なく柔軟であること
すべての企業は「リーン(贅肉がない)」でなければならず、それは即ち「計画しない」事である。

 

③ライバルのものを改良すること
本当に商売になるかどうかを知るためには、既存顧客のいる市場から始めるしかない。成功しているライバルの人気商品を改良する事から始めるべきだ。

 

④販売ではなくプロダクトに集中すること
テクノロジーは製品開発にこそ活かされるべきで、販売は二の次でいい。

 

しかし、むしろ正しいのは、それとは逆の原則だ。

①小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい
②出来の悪い計画でも、ないよりはいい
③競争の激しい市場では収益が消失する
④販売はプロダクトと同じくらい大切だ

 

次世代の企業を築くには、バブル後に刷り込まれた教義を捨てなければならない。但し、すべてを逆にすればうまくいくという訳でもない。むしろ、こう自問するべきだ。ビジネスについて、過去の失敗への間違った反省から生まれた認識はどれか。何よりの逆張りは、大勢の意見に反対する事ではなく、自分の頭で考える事だ。

 

独占はすべての成功企業の条件

完全競争の反対が独占だ。完全競争下の企業が市場価格を強いられる一方で、独占企業は市場を支配しているために自由に価格を設定できる。競争がないので、独占企業は生産量と価格を調整して利益の最大化を図る。完全競争下ではすべての収益が消滅する。だから起業家ならこう肝に命じるべきだ。永続的な価値を創造してそれを取り込むためには、差別化のないコモディティ・ビジネスを行ってはならない。

 

独占企業は、たいてい次の特徴のいくつかを合わせ持っている。この特徴に従って自分のビジネスを分析する事が、存続可能な企業を作るのに役立つ。

 

①プロプライエタリ・テクノロジー
プロプライエタリ・テクノロジーは、本物の独占的優位性をもたらすようないくつかの重要な点で、2番手よりも少なくとも10倍は優れていなければならない。

 

②ネットワーク効果
利用者の数が増えるにつれ、より利便性が高まるのがネットワーク効果だ。そのネットワークは、まだ小規模な時の初期ユーザーにとって価値あるものでない限り、効果は広がらない。

 

③規模の経済
独占企業は規模が拡大すればさらに強くなる。規模拡大の可能性を最初のデザインに組み込むのが、優良なスタートアップだ。

 

④ブランディング
強いブランドを作る事は独占への強力な手段となる。

 

独占を築く

完全競争下の企業は目先の利益を追うのに精一杯で、長期的な未来に備える余裕はない。生き残りを賭けた厳しい闘いからの脱却を可能にするものは、ただ1つ、独占的利益だ。独占は、すべての成功企業の条件なのだ。

 

ブランド、規模、ネットワーク効果、テクノロジーのいくつかを組み合わせる事が独占につながる。但し、それを成功させるには、慎重に市場を選び、じっくりと順を追って拡大しなければならない。

 

①小さく始めて独占する
どんなスタートアップも始まりは小さい。どんな独占企業も市場の大部分を支配している。だから、どんなスタートアップも非常に小さな市場から始めるべきだ。失敗するなら、小さすぎて失敗する方がいい。大きな市場よりも小さな市場の方が支配しやすいからだ。

スタートアップが狙うべき理想の市場は、少数の特定ユーザーが集中していながら、ライバルがほとんどあるいは全くいない市場だ。

 

②規模拡大
ニッチ市場を創造し支配したら、次は関連する少し大きな市場に徐々に拡大してゆくべきだ。アマゾンはそのお手本と言える。ジェフ・ベゾスは創業時からすべてのオンライン小売市場を支配するというビジョンを持っていたけれど、極めて意図的に、まず本から始めた。書籍なら何百万タイトルでもカタログ化できるし、ほとんどすべてが同じ形状なので発送しやすい上に、書店が在庫を抱えたがらないような稀少本こそ最も熱心なユーザーを呼び込む事ができる。

徐々に規模を拡大するには自己規律が必要になる。大成功している企業はいずれも、まず特定のニッチを支配し、次に周辺市場に拡大するという進化の過程を創業時から描いている。

 

③破壊しない
「破壊」という言葉は既存企業への脅威を表わすために提唱された概念で、スタートアップが破壊にこだわる事は、自分自身を古い企業の視点で見るようなものだ。本当に新しいものを作りたいなら、古い業界を意識するより、創造に力を注ぐ方がはるかに有益だ。周辺市場に拡大する計画を練る時には、破壊してはならない。できる限り競争を避けるべきだ。